12話「あの日の記憶」
僕がこの時間に外で母さん、父さんと一緒にならないのは初めてだ。
その代わり、僕の隣には今、浴衣を着た芽依お姉ちゃんが居る。
花火の音。
だけど僕には、花火よりも芽依お姉ちゃんを見てしまう。
「綺麗だね」
芽依お姉ちゃんはこちらを向きそう言う。
僕は、芽依お姉ちゃんと目を合わせられなかった。
なぜだろう、いつもより綺麗に見えた。
花火が僕等を照らしていた。
その瞬間が、僕の目に焼き付いた。
ゆったりとした時間が流れる。
その中、迷子の放送が流れる。
「私ね、小さい時、両親と花火に来てね、はぐれたことがあったんだ」
芽依お姉ちゃんは、ふと、思い出したかのように語り出す。
「迷子になったってこと?」
「そう、それでね、私、その当時大人が怖くてね」
「大人が?確かにちょっとはそうだけど、どうして?」
「特に意味はないんだけど。それで私、ずっとその場で泣いていたんだ。最初は親とはぐれてたことで泣いてて、いつの間にか周りの大人たちが怖くて泣いていたんだ」
僕は、それを聞いている事しかできなかった。
「だけど、その時助けてくれたんだ。私の怖かった大人が。動けなかった私の手を引いて、男の人だった。それで本部のテントまで連れてってくれたんだ。だけどその連れてってくれた人は、すぐに去って行っちゃったの。そしてお母さんが来て、お父さんが来て。私はそこでもう一度泣いたの。私はそこで、大人への恐怖心が減っていった」
話はそこで終わった。
なんて言えばいいのだろうか。
怖かったね。
違う。
大丈夫だった?
違う。
大丈夫だったんだ。
「大丈夫。僕がいるよ」
返答を間違えただろうか。
気取ってしまっただろうか。
大丈夫だろうか。
「そうだね。頼んだよ」
スターマインが鳴り響き、僕と芽依お姉ちゃんはそちらを向く。
僕はそっと、芽依お姉ちゃんの手を握るのだった。
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