10話「願いごと」

 7月7日の天気は曇り時々雨であった。

 宇宙の2人は会うことは出来ないが、僕達2人は違う。

 雨のカーテンを閉められなければの話だが。

 

 学校の玄関にある笹に、僕が吊るした願いは『おこずかいが欲しい』だった。

 ここに、本当の願いは書けない。

 恥ずかしいから。

 

 「勇気、なんて書いた?って、もっと書くべきことがあるだろ」

 智也が僕の肩に手を乗せる。

 「そ、そうだけどさ」

 「いいか、愛をする事はなんにも恥ずかしいことじゃない」

 両手を広げて表現する。

 「そりゃあ、智也にはそうかもしれないけど」

 「智也は分かんないんだよ」

 隣にいた翔平が言う。

 「智也はなんて書いたの?」

 僕は笹に吊るしてある智也の短冊を見る。

 『おっぱい揉みたい』

 「ストレート過ぎる!先生になんて言われるか分かんないよ」

 「だったらこう言うよ『俺の願いだからしょうがない』って」

 「そろそろ絶交するぞ」

 僕と翔平は彼と距離を取る。

 「類は友を呼ぶ」

 智也は僕達を指差し、そう言った。

 そうして今日も夕方となる。

 翔平の願い事は『サッカーが上手くなりたい』だった。

 

 僕の本当の願い事は、リュックの中に入っている。

 それを忘れずに、忘れずに帰る。


 部屋に笹はない。

 これをどうしようか。

 僕は部屋の中を探す。

 何かないだろうか。

 引き出しを開ける。

 

 紐だ、紐があった。

 後は吊るす場所だ。

 1つ見つけた。

 ドアノブだ。

 そこしかない。

 僕は早速そこに吊るす。

 そして僕は一回居間に行く。

 

 数時間後、僕は戻る。

 そこには芽依お姉ちゃんが居た。

 僕は短冊のことを忘れていたが、はっと気が付く。

 ドアノブ。

 そこには僕が吊るした短冊が。

 「勇気君?」

 僕は芽依お姉ちゃんの方を見る。

 

 芽依お姉ちゃんはこれを見たんだろうか。

 いや、見たはずだ。

 

 僕は赤らめながら顔をそらす。

 そしてちらりと、芽依お姉ちゃんを見る。

 「見た?」

 芽依お姉ちゃんは頷く。

 更に顔が熱くなるのを感じた。

 

 突然、心地よい香りに包まれる。

 芽依お姉ちゃんが僕を抱き締めている。

 頭を撫でられる。

 僕は、恥ずかしさと心地よさで頭が一杯になった。

 僕はひっそりと目を閉じることしかできなかった。

 

 七夕の願いは『芽依お姉ちゃんともっと一緒に居られますように』だった。

 だけどそれは、すぐに叶う願いだった。

 僕と芽依お姉ちゃんの間には、天の川なんて無い。

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