秋原勇気編

1話「返事を」

 このパズルゲームは、僕には難しめのステージが多い。

 「勇気くん。秋原勇気くん」

 芽依お姉ちゃんの声がし、ハッとする。

 ついゲームに夢中になってしまった。

 僕は、あの日の返事をしなければいけない。


 あれから1週間が経とうとしていた。

 

 「私ね、勇気くんのことが好き」

 1週間前、同じこの場所、僕の部屋で言われたその言葉に僕は悩んだ。

 僕は芽依お姉ちゃんのことが好きだ。

 だけどそれは違うんだろう。

 僕にはまだ恋は分からない。

 だけど、芽依お姉ちゃんを悲しませたくはない。


 来るはずのない恋心に、どうしようかと問いかけていた。

 だけど、それも終わろう。

 「決めた。芽依お姉ちゃん」

 今、返事をする。

 「うん」

 芽依お姉ちゃんは目の前にいる。

 僕の瞳と芽依お姉ちゃんの瞳が合わせ鏡になる。

 だが、芽依お姉ちゃんはすぐに目を逸らした。

 「僕、芽依お姉ちゃんと付き合う。まだ僕にはよく分かんないけど。今まで通りかもしれないけど、それでも良いかな?」

 僕は下を向く。

 急に恥ずかしくなって来た。

 僕の答えはそうだ。

 

 「うん、良いよ。それでも」

 芽依お姉ちゃんが僕に抱き着いてくる。


 だけど、僕は離れようとする。

 「いいでしょ、恋人同士なんだし」

 顔が熱くなるのを感じる。

 「ほら」

 もう一度、芽依お姉ちゃんが僕を抱きしめた。

 甘い香りが顔を包む。

 僕は恥ずかしがりながらも、その匂いに、顔を埋めた。

 こうして、僕達は関係としては恋人同士となった。


 来るはずのなかった恋は、案外すぐそこまで来ているのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る