17話「節分」

 2月3日、節分。

 会社帰りの私は家の玄関先で鬼のお面をかぶる。

 扉を開け、家に入る。

 「鬼は外!」

 それと同時に豆が宙を飛んでくる。

 彩香と芽依が投げている。

 「がおー」

 など言い、それらしくする。

 だが、芽依は何かに気付いたようで、途中で豆を投げるのを止めていた。

 しかし、彩香は投げる。

 「いや、あれ、お父さ―」

 「鬼は外!」

 それよりも、痛い。

 思ったより痛い。


 この人は何か私に対して恨みでもあるのだろうか。

 ないと思いたい。

 

 目に一瞬、豆が至近距離で映る。

 まずい。

 目を閉じるが少し遅かった。


 私は堪らず、家を飛び出した。

 「痛っ」

 鬼のお面を外す。


 涙を拭い、家に入る。

 「ただいま」

 いつもの笑顔を見せる彩香。

 普段はそれが癒やしとなるが、何故か今日はそうではない。

 「やっぱり鬼だよね?」

 芽依が私に言う。

 何と言うべきだろうか。

 「さあ、どうだろうね」

 誤魔化せはしないだろうが、憶測は胸にしまっておいてほしい。

 サンタと同じだ。

 

 しばらくすると、彩香が恵方巻きをキッチンから持ってくる。

 「今年はどっち?」

 「南南東だから…こっちだ」

 私は南南東の方角を指差した。

 

 恵方巻きを頬張る。

 そういえばこの恵方巻、知ったのは最近だ。

 何年前だろうか、まあ、うなぎと同じようなものだったはずだ。

 願い事を浮かべながら食べるんだった。

 私は健康を願った。

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