15話「新年・4」

 義父に私の病気の話はしていない。

 そもそもこの病気を知ったのは結婚してからだ。

 昔ながらの伝統や風習を敬うこの家から、彩香を私の妻にするのは大変だった。

 「病気です。私の」

 私は頭を下げる。

 全身から冷や汗が出るのが分かる。

 義父母への挨拶ぶりだろうか。

 「それは伝染るものか?」

 「いいえ」

 「なら、生命に関わるものか?」

 「いいえ」

 「私は一度決めた事を滅多に曲げたりしない。だから、害がないならいい」

 私の体から噴き出していた冷や汗が収まっていく。

 「血の繋がった孫の顔が見れないのは悲しいが、まあしょうがない。だが、その子はしっかり育てろ、信じているぞ。正義。お前は父親だ」

 「はい、お義父さん」

 私は深々とお辞儀をする。

 顔を上げる。

 義父の目は、哀しそうであった。

 「病気か、ならしょうがないか」

 義父は小声で言っていた。


 その後、義父母は芽依の遊び相手をするようだ。

 「正義さん。芽依ちゃんは本当に恥ずかしがりやなんですか?」

 義母が彩香に聞いていた。

 「いえ、トラウマからのものだと思いますよ。虐待の」

 芽依と過ごして分かった。

 芽依は私達以外の大人に対して恐怖心を抱いている。

 出掛けるときも、周りの大人に対して。

 少しずつ和らいではいるが、それでもその恐怖心は強い。

 

 芽依は今日で、義父母に対する恐怖心はあるものの、質問形式での会話が出来るようにはなっていた。 


 帰宅後、芽依は昨日と同じようにお気に入りの亀のぬいぐるみを手に持っていた。



 次の日、私達は近くの神社に赴いた。

 芽依は私の見様見真似で参拝をする。

 

 家内安全、健康第一でお願いします。

 私はそう願った。

 

 「芽依は何お願いしたの?」

 「んーとね、元気でいられますようにって」

 

 新年が始まった。

 今年からは芽依がいる。

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