14話「新年・3」

 次の日。

 私達は車に乗り、今度は彩香の実家を目指していた。


 車で1時間ほど走る。

 住宅街の中、和風の古い家がある。

 塀の中に入り、程よい場所で車を止める。

 この庭には、木がいくつか植えられている。

 そんな庭を芽依は見渡す。

 「この木ね、春になると桜が咲くんだ」

 芽依は彩香が指差した木を眺める。

 立派とまではいかないが、程々に良い木が植えられており、きちんと手入れがされている。


 インターホンを鳴らし、私達は中に入る。

 しばらくして、義母が出迎える。

 義母は割烹着姿だ。

 「明けましておめでとうございます」

 義母はゆっくりとした口調で言う。

 「明けましておめでとうございます」

 それに応える。

 「あら?その子はどうしたんですか?」

 私の後ろで隠れている芽依を義母は知らない。

 勿論義父もだ。

 「色々ありまして」

 「詳しいことはまた後でお話します」

 「それもそうですね。取り敢えず上がってください」

 私達は義母の案内で居間へ向かう。

 

 義母が襖を開ける。

 「明けましておめでとうございます」

 私は深々とお辞儀をする。

 義父は奥の方で胡座をかいていた。

 眼鏡をかけ、和服を着ている。

 

 義父は新聞をたたみ、こちらを見る。

 「明けましておめでとう。ん?何だその子は」

 「ほら、芽依、挨拶」

 芽依は変わらず、私の後ろにいる。

 「恥ずかしがり屋なのか?」

 「そうゆう感じです」

 恥ずかしいというより、怯えていると言うのが正しいだろう。

 「まあ、立ち話もなんですから、どうぞ座ってください」

 私達は出された座布団に座る。


 お茶が机の上に出る。

 「それで、その子はどうしたんですか?」

 「実はですね―」

 私は義父母に芽依を譲り受けた訳を話した。


 彩香は芽依の相手をしている。

 どうやらお茶が熱くて飲めないらしい。


 義父は机の上で手を組む。

 「起きてしまったことは仕方ない。だが、私がその美菜の親だったら叩いていただろう。勿論この子の父もだ。そいつはどうした?」

 美菜の元彼、井沢については私もよく知らない。

 「それがさっぱりなんです。いきなり断りもなしに離婚して。音信不通で」

 「それは酷いですね」

 「ところでお前らは何で子を産まない?」

 義父は私の病気を知らない、そろそろ潮時だろうか。

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