12話「新年・1」

 翌朝。

 つまりは1月1日、元旦。

 居間のドアが勢い良く開いた。

 「起こしてって言ったじゃん!」

 「あけましておめでとう。ぐっすり寝られたかな?」

 「あけましておめでとうって、何で起こしてくれなかったの!?」

 「いや起きなかったし」

 「あけましておめでとう。また来年あるでしょ」

 彩香は食卓におせち料理を並べる。

 「うわー」

 芽依はそれらを見て、気分が上がっているようで、昨晩のことは忘れて元気に食べていた。

 

 朝食後、ゆっくりしている間もないまま、私達は車に乗った。

 目的地は私の実家だ。

 「おじいちゃん家分かる?」

 「分かるも何も実家だぞ」

 私はハンドルを握る。


 車で約1時間半。

 周りを田んぼに囲まれた家。

 これが私の実家だ。

 自然が多い場所。

 いや、美菜が言うには何も無い場所に建っている。

 「んんー」

 芽依や彩香は身体を伸ばしたり、深呼吸をしたりしていた。

 それは私も同じだ。


 芽依は駆け出し、家に入る。

 私と彩香も後に続く。


 引き戸を開け、居間に入る芽依の姿。

 「あけましておめでとうございます」

 ここでの芽依は元気だ。

 私達も後に続く。

 「あけましておめでとう」

 「おめでとうございます」

 「はいおめでとー、ってあら?あんた達だったか。美菜はどうしたんだ?」

 居間の奥の方に、茶をすする小太りな父がいた。

 私達も座る。

 「実は…」

 私達は芽依を譲り受けた経緯を話した。

 「なるほど、まああいつは子育てに向かないと思っていたが…ああそうだ、おうい婆さんや正義達が来たぞ」

 「はあい。あけましておめでとう。あれま、皆いるのかい?美菜は?」

 キッチンからのれんをくぐり、痩せた母が出てくる。

 父に話したことと同じ事を話す。

 「はー、そんな事が。ちょっと待っとって」

 母はそう言うと引き戸からお年玉袋を取り出し、芽依に渡す。

 「ちょっとしかないけどね、はいお年玉」

 「ありがとうお祖母ちゃん」

 芽依はそれをポケットにしまう。

 

 そういえば、いつもは美菜もいるが、今日はいないな。

 まあ、芽依もいると予想し、気まずくなるのを避けているのだろう。

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