11話「大晦日」

 12月31日。大晦日。

 食後にソファに座り、ゆっくりとしていたとき。

 「さあ、始めましょう」

 彩香は気合を入れてこう言った、おそらく大掃除だろう。

 だが、実際に掃除をするのは私だ。

 芽依はどうだろう手伝わせられるか?

 いやどうだろうか、美菜の子だしな。

 

 私は立ち上がる。

 「よし、じゃあ始めるか。私は窓やっとくから。彩香はトイレ掃除。芽依は…廊下でもやっていてくれ。掃除機はそこの押し入れにある」

 隣の老夫婦から貰った新聞紙と洗剤を手に取り、作業に取り掛かる。

 

 数分後。

 窓を開け、ベランダに出る。

 かなり寒い、もう一度部屋に戻りたい。

 「さあ、やるか」

 私は気合を入れ、掃除を続ける。

 「お父さんー。次何すればいい?」

 そこに、廊下の掃除が終わったであろう芽依が戻ってくる。

 「次は、玄関かな。箒があるからお願い」

 芽依は戻らず、私のところへ来る。

 「なにこれ?」

 窓にかけた洗剤を指差す。

 「それ?洗剤だけど」

 「おひげ」

 芽依は洗剤がかかっている部分に口を合わせる。

 「いいじゃん」

 サンタクロースのようになっている芽依に反応してあげる。

 芽依はニッコリと笑った。

 

 その後、家中を掃除し、夕方となった。

 「凄い!」

 芽依は綺麗になった部屋を見て、驚いていた。

 「今日は頑張った」

 彩香はソファに横になり、やりきった感を出していた。

 まあ、いつも掃除をしない彩香だが、今日は頑張ったと思うので許してやろう。

 

 実際はほとんど私がやっていたのだが。


 日も沈み、夕飯となった。

 もちろん年越し蕎麦だ。

 「除夜の鐘って、ここ聞こえる?」

 「あー。どうだっけ?」

 「そういえば一昨年くらいから聞いてないですね」

 芽依はそれを聞いてがっかりしたようだったが、すぐまた別の質問をした。

 「年が変わる瞬間ってどんな感じ?」

 「ああ、別に何とも…」

 「2001年のときは流石に違いましたけど」

 「まあ、気になるんだったら起きてれば?」

 通常だったら12時まで起きていることは無いが、今日ぐらいは良いだろう。

 おそらく新年まで起きていることは無理だと思うが。


 その後の芽依はしばらく、興奮していたが、10分もしないうちにテレビを見始めた。

 10時を過ぎると、芽依は眠たそうにうとうとしていた。

 「眠たいなら寝ていいぞ。年越しの時起こしてやるから」

 「分かった。絶対起こして」

 芽依はそう言うと、その場にすぐ寝てしまった。


 11時45分になり、彩香が芽依を起こそうとする。

 しかし、芽依は起きずにぐっすりと寝ていた。

 「起きませんね」

 「芽依、ほら、起きろ」

 起きない。

 その後も揺すったりするが、全く起きようとしない。

 

 そうして、年越しを迎えた。

 「結局年越しは夢の中か」

 「あけましておめでとうございます」

 「おめでとう。今年も宜しく」

 「ええ、こちらこそ」

 私達は芽依を布団の上に載せ、就寝した。

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