6話「はじめてのプレゼント」

 ぬいぐるみの棚には当然だが多くのぬいぐるみがあった、芽依はその中で2つ手に取っていた。

 1つは亀。

 もう1つはイルカだ。

 なぜ亀とイルカなのかは分からないが、まあそんなことはどうでもいい。

 「分かってると思うけど、どちらか1個だぞ」

 芽依はしばらく考えた後、亀のぬいぐるみの方を選んだ。

 その後は芽依の服などを買っていった。

 私はファッションには疎く、彩香に任せていたが、2人は笑顔でいた。

 

 車の中で芽依はずっとぬいぐるみを抱きしめていた。


 昼は芽依が好きだと言っていたカレーだ。

 

 私はカレーを美味しそうに食べる芽依を眺める。

 

 私はどうやったら親になれるのだろうか。

 確かに役所に養子縁組届は提出した。

 その時点で私達と芽依は親子だ。

 だが、それでは駄目なのだろう。

 

 時間か?

 

 私は麦茶を飲む。

 

 芽依には、この日常になれるまで、非日常を歩ませるしかない。

 

 昼食の後、芽依はぬいぐるみを抱きしめていた。

 話をしよう。

 私達との距離を近づけなければいけないだろう。

 だが、どうしたら良いか。

 手に持っているぬいぐるみから入るか。

 

 「亀、好きなの?」

 「ううん」

 芽依は首を横に振る。

 「イルカは?」

 「イルカは、好き」

 「それじゃあ、何で亀にしたの?」

 芽依はしばらく考える。

 「かわいいから、これがいい」

 「そっか」

 芽依は小さく頷いた。

 「一目惚れですね」

 彩香がココアを持ちながら会話に入ってきた。

 ココアからは湯気が出ている。

 「そうだな」

 「飲む?」

 彩香はカップを芽依に差し出す。

 芽依は「うん」と言ってそのカップを受け取った。

 ココアを一口飲み、彩香に返す。

 口から湯気を出す。

 「ああ、もらうよ」

 彩香からコップを受け取り、一口飲む。

 口の中に甘さが広がり、喉へと向かう。

 私も、口から湯気を出した。

 芽依が笑顔を見せる。

 私はココアを彩香に返す。

 「ねえ」

 芽依が話しかけてくる。

 「ん?」と返すと、しばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。

 「2人のこと、何て呼べばいい?」

 「そうだな」

 本当なら、お父さん、お母さんと呼ばせるのが良いと思う。

 だが―

 

 芽依は私が考える暇も与えずに言った。

 「お母さん、お父さんって呼んで良い?」

 私はその言葉にハッとした。

 私はもう、この子の父親なのだと。

 「いいよ」

 私達2人はそう答えた。

 芽依は私に抱きついた。

 私は驚きながらも、その小さな体を抱きしめる。

 彩香は芽依の頭を撫でる。

 そして、芽依は一番の笑顔を見せてくれた。

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