4話「正義の日常」

 アパートから徒歩10分で駅。 

 電車でいつもはだいたい20分で移動する。

 そして約5分歩いて会社に着く。

 

 6時。

 ガタイの良い、うすい茶色のスーツに身を包んだ青葉俊が私に話しかける。

 「ああ、良いよ。」

 会社の同僚であり、友人である俊とはよく飯を食ったり、会社帰りに飲みに行ったりしている。

 

 ビールジョッキが私の目の前に運ばれてくる。

 俊はビールが来た瞬間に手に取った。

 私はジョッキを手に取る。

 「乾杯」

 ビールジョッキを宙に上げる。

 そしてビールを喉に流し込む。

 適度に冷えた炭酸が、喉を刺激する。

 少し苦い。

 だが、そこが良い。

 美味い。

 「ああ」

 私は声を出さずにはいられなかった。

 ジョッキの中のビールは半分近くに減っていた。

 

 私が焼き鳥を数本食べ、ビールももう少なくなってきた時だ。

 「実はな、妹が子育てを辞めたいって言って、子供を私が預かることになったんだ」

 「なんだそれ」

 「しょうがないでしょあれは。性格と世間が悪い」

 「はあ、今何歳だ?」

 「26だ」

 「お前の歳じゃない」

 「嘘だよ、8だ」

 「まじか。俺の娘より3個も上か」

 「ああ、不景気だってのに」

 「しゃあねえさ、氷河期乗り切った俺達だ。なんとかなる」

 「残業代払われてねえよ」

 私と俊は残りのビールを飲み干し、帰ることにした。


 7時前に私は帰った。

 ドアを開ける。

 「ただいま」という声に、彩香が「ただいま」と答える。

 だが、芽依の声は聞こえなかった。

 「お風呂、湧いてますよ」

 「ああ、芽依は?」

 「テレビを見てます」

 私はクローゼットにスーツをしまうと、風呂に入った。


 約十分後、出る。

 「ご飯出来てますよ」

 私は彩香に返事をしてリビングへ向かう。

 既に彩香と芽依は座っていた。

 私も座る。

 「いただきます」

 そう言って食べ始めたが、芽依の声はまだ小さい。

 今日の夕食はおでんだ。

 彩香は掃除と人付き合いが苦手だが、こと料理、中でも煮物は自慢出来るほど美味しい。

 

 大根を1口食べた芽依のその口からは、ふと「おいしい」という言葉が漏れた。

 そして口角が少し上がったように見えた。

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