3話「しばらくの非日常」

 家に帰ると、彩香がすぐに夕食を作ってくれた。

 シチューだ。

 しかし芽依は苦手だったのか、人参を食べずにいた。

 「人参、嫌いなのか?」

 芽依は反応しなかった。

 私は芽依の器から人参と肉を拾い、芽依の口元へ寄せる。

 だが、芽依は口を固く閉ざした。

 美菜はここで暴力を奮っていたのだろうか。

 芽依の目が潤んでくるのが分かった。

 私は人参と肉を器へ戻す。

 どうやら、これはひと筋縄にいかないようだ。

 

 夕食を食べると、芽依は彩香と共に風呂に入った。

 話し声が聞こえる。

 「人参、嫌いなんだよね?」

 芽依の声は聞こえない。

 おそらく、頷いているのだろう。

 「それじゃあ、好きな食べ物は?」

 「……カレー」

 「カレー?でも人参は嫌いなんだよね。まあ、今度作ってあげるね」

 話は出来ていたのだろうか、半強制的に一緒に入ったからな。

 出てきた芽依は、それまでの荒れた髪が整ってきて、ほんの僅かかもしれないが、ツヤも出てきたように思った。

 

 私が風呂から出てくると、芽依の髪は来る前ほどではないがボサボサになっていた。

 やはり元から癖っ毛なのだろう。

 

 その後はこれからの話をした。

 芽依は転校するのは来週。

 芽依はそう聞いて頷くだけだった。

 後は荷物を整理したりして、眠りについた。


 次の日。

 私が起きると、彩香が朝食を作っていた。

 私は顔を洗い、芽依を起こす。

 時刻は6時半。

 いつも起きる時間より早いかもしれないが、この時間には起きてほしい。

 「おはよう」

 「……おはよう」

 芽依は一瞬戸惑ったが、直ぐに昨日のことを思い出したようだ。

 目をこすりながら居間へ向かう。私もその後ろを行く。

 「おはよう。ご飯出来てるよ」

 「おはよう」

 テーブルの上には米と味噌汁。

 「いただきます」の合図と共に食べ始めた。

 

 7時半。

 赤いランドセルを背負った芽依。

 黄色い服を着た彩香。

 2人は車に乗り込んだ。

 芽依はやけに暗い顔をして家を出た。

 私の「行ってらっしゃい」の声にも、暗く「行ってきます」と言った。

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