2話「日常の終わり」

 何故気付かなかった、今までも会っただろう。

 「もう私には、この子を幸せにできない」

 私は彩香の方を見る。

 

 私は精子無力症で、子供を作ることが出来ない。

 それに、私の家の近くには養護施設などは聞いたことがない。


 私は美菜を責めようとした。

 しかし、美菜と芽依の風貌を見ると、それは出来なかった。

 「彩香、大丈夫か?」

 私が彩香の方を向くと、彼女も私の方を向いた。

 「正義さんが大丈夫なら、私は大丈夫です」

 私は芽依を見る。

 本当ならこの子に意見を聞きたいが、まだそんな歳じゃない。

 この子にそんなことを聞くのは酷だろう。

 だから私は、簡単な質問をした。

 「芽依、今の生活は楽しいか?」

 芽依は美菜の方を向く。

 「正直に答えていいのよ」

 美菜は微笑みながらそう言う。

 そして芽依は、小さく首を横に振った。

 そして私は覚悟もまともにしないまま口を開いた。

 「分かった。その子は私と彩香が預かろう。1週間でこちらも準備をする。それまでに荷物をまとめられるか?」

 「ええ」

 私達は立ち上がり、芽依に手を振り、その場を去った。

 

 アパートに帰り、私達はソファにもたれかかる。

 そしてため息を1つ。

 誕生日のプレゼントなのかこれは。

 「まさか、あんなことになっていたとは」

 「あれじゃ可哀想です」

 「美菜は元より無理してたんだ。離婚して、子供をちゃんと育てられる性格でもないのに。あいつはよく頑張ってたよ」

 私が天井を見上げていると、彩香が私の肩を叩いた。

 「なるんですね、私達。パパとママに」

 その言葉を聞くと恥ずかしくなる自分がいた。

 「そうだな。あいつの為にも、大事に育てよう」

 私は立ち上がり、体を伸ばした。

 この部屋も3人になると狭くなる。

 どうするか。

 

 それから約1週間後。

 美菜からメールで「用意が出来た」と呼ばれた。

 私達は車で芽依を迎えに行った。

 もう覚悟は出来ている。


 私は芽依の荷物を持つ。

 必要な物と玩具が入っているのだろうが、思ったより重くはない。

 芽依は隣に居る美菜に話しかける。

 「ごめんなさい。芽依、何もできなくて」

 美菜は涙をこぼしながら、芽依を抱きしめる。

 「いいのよ。芽依は何も悪くない」

 美菜はしばらくして芽依を離す。

 「行きなさい。あなたはそっちの方がいいわ」

 私とは芽依の手を握る。

 芽依は私の手を握り返さずにいた。

 そして芽依はもう片方の手で美菜に手を振る。

 美菜も芽依に手を振り返す。

 やがて手を振るのを辞め、その手は彩香の手と繋がれた。

 彼女たちの手は一体何を意味しているかは分からなかったが、「またね」という意味であってほしい。

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