芽依ちゃんの日常と非日常

35ki

春山正義編

1話「芽依の日常」

 紅葉が最盛期を迎え、これから葉も落ちようかという頃。

 いつもの日常を営んでいる私の携帯が、一昔前のメロディーを奏でた。

 メールの着信音だ。

 私はシルバーの携帯をポケットから取り出す。

 そこには私の妹である「美菜」の文字。

 ボタンを操作し、メールを開く。

 

  From:美菜

  to:(自分のアドレスだ)

  件名 お願い

  11/9 18:42

  大事な話があるの。2人で家

  まで来て。


 一体、何だろうか。

 私はそれを見て携帯を閉じ、ポケットに仕舞う。

 「彩香」

 キッチンで夕食を作っている妻に話しかける。

 「どうしたんですか?」

 彩香はキッチンから顔を出し、ソファに座っている私を見る。

 私も彩香の方を向く。

 「美菜が2人で家に来てくれって」

 「美菜さんが?何かあったんでしょうか?」

 「分からない。飯を食ったら行くか」

 彩香は「分かりました」と言って、再び夕食の準備を始めた。

 

 おおよそ1時間後、私達は美菜の発言に驚くこととなった。

 「正義、彩香。あなた達にお願いがあるの。あの子、芽依を育ててほしいの」

 私達は思いもよらない言葉に、返答することが出来なかった。


 美菜は頭を上げる。

 「一体、どうしたんだ?」

 部屋は散らかっていた。

 「私には、もうあの子を育てることは無理なの」

 私達は何も言わず、その後の話を聞く。

 「あの子が1歳のとき、離婚した。あの時私は確かに決心したの。この子は私が育てるって。だけど気付いたの。私には無理だって」

 「そんな―」

 ことはない。

 と、続けざまに言おうとした彩香の言葉は美菜の「芽依」という言葉に遮られた。


  美菜の見ている廊下から、ブラウンの癖っ毛の女の子が顔を出す。

 癖っ毛の髪は更にボサボサになっている。

 「来て」

 芽依はゆっくりと美菜に向かう。

 いや、恐る恐ると言った方が合ってるかもしれない。

 芽依が美菜の所に行くと、美菜が芽依の袖をめくった。

 袖と言っても、今の季節には合わない半袖だ。

 腕には青紫色の痣があった。

 「なっ……」

 彩香は手で口を塞ぎ、私は膝の上にある両手を強く握った。

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