5.兵庫県神戸市
琵琶湖
光は、
やつらは
私は、血管の中をさまよう癌細胞に問いかけた。
「なぜ、こんなことをするんだ?」
「知るか! 俺がやりたいからやるんだ!」
「こんなことを続けたら、お前も死ぬことになるぞ」
癌細胞は、私の
「でも、こいつだって死ぬだろ?」
癌細胞は、話の通じない相手だった。
光の症状は、さらに重くなった。医者に出来ることは、痛み止めの注射を打つことくらいだった。だがそれにも限度がある。光は泣き叫んだ。
「痛い、痛い! お父さん、お母さん、どうして私は死ななければいけないの!」
どうしてか? 両親には答えられなかった。当たり前だ。答えなんかない。両親は「ごめんね、ごめんね」と
光は、良い子だった。夜中にベッドで、一人でそっと考える。
「お父さんとお母さんに、ひどいことを言ってしまった。明日は謝ろう。でも、どうして私は、死ななければならないんだろう?」
私は光にそっとささやいた。
「まだ死んではいけないよ。死ぬなら、夏にしなさい」
水分子の声は、人間には聞こえない。あまりに小さすぎるからだ。だが、光はがんばって、夏まで生きた。
七月の終わり、光の腎臓は癌細胞に食い尽くされ、機能を失った。
「見て分からんのか! 今すぐ点滴を止めろ!」
しかし、
光は
「お父さん、お母さん、ごめんなさい」
「あなたは何も悪いことはないのよ」
「私が死んだら、お葬式にお友達を呼んでね」
「ああ、そうするよ」
光は
光の両親は
空は、青く晴れ渡っていた。
街外れの山中にある
いや、全てではなかった。水分子である私は気化し、水蒸気となって煙突から立ち
それは、光の焼き尽くされた肉体から生じた、灰の
「君を、空の上にある雲の
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