4.琵琶湖・湖南

 ある日、一匹のプランクトンが、私を体内に取り入れた。彼の小さな細胞膜さいぼうまく内に私を充填じゅうてんし、細胞液としたのだ。

 そのプランクトンを、一尾の小鮎こあゆが捕食した。小鮎も同じことをし、私は小鮎の体の一部になった。よくあることだった。

 小鮎は清らかな湖水の中で、すくすくと成長していった。温かな日差しがプランクトンを増殖させる。食べ物には不自由しなかった。小鮎は仲間たちと群れをなし、元気いっぱいに湖水を泳いでいた。筋肉も、ひれも、うろこも、きたえられていった。だが、その幸せも終わるときが来た。

 一枚のあみが湖に打たれ、小鮎の群れを捕らえた。湖南こなんの漁師たちが、子供たちのために主催しゅさいした地引じび網体験会あみたいけんかいだった。小鮎は網からはずされ、子供のてのひらに包まれた。女の子の掌だった。

 「きれい。かわいい。ぬるぬるしてる……」

 生まれて初めて小鮎に触れた女の子の、賛嘆さんたんの声に包まれながら、小鮎は死んでいった。小鮎はその場でてんぷらにされ、女の子は頭から尻尾まで、喜んで食べた。

 こうして私は、ひかるの体内に取り込まれたのだった。



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