第16話 彼女の願い

ここからなら、あそこが近いな。


「美子さん、乗りに行きますか?」

「何に?」

「新幹線」

「ほんと?」

「はい。でもさっき話したのと違いますよ」

「それでもいい、行く行く」

美子さんは、俺の手を掴んだ。


「ねえ、実くん、どのくらいかかるの?」

「このスピートなら、すぐつきますよ」

「ほんとに?」

「はい、見えてきました」

美子さんは、僕を下ろして着地した。


「実くん、ここはどこ?」

「青梅鉄道公園です」

「公園?新幹線はどこ?」

「えーと、待って下さい」

少し歩いて見えてきた。


「はい、初代新幹線の0系です。新幹線の歴史はこいつから始まりました」

「1両だけ?走ってないの」

「ええ、とっくに引退しました。殆ど解体され、少数が展示され、こいつはそのひとつです」

「意味ないじゃない。走ってないけど・・・」

「贅沢言わないで下さい。中には入れますから」

「詐欺」

美子さんは、不貞腐れながら入っていた。


でも、やたら、騒いでいる。

物には触れる事が出来ないので、座れないが、それでも感動しているようだ。


「凄いね、実くん」

「喜んでただいて何よりです」

「私、生き返ったら・・・」

「えっ」

「ううん、何でもない。今度の連休は、神社のお手入れ、よろしくね」


忘れていた。

「美子さんは、未練を取り戻すために、寂田神社の復旧に力を注いでいる」と・・・

(怠けていたと思うが・・・)


もしかして・・・まさかね・・・


ちなみに入園料は、ちゃんと払っておいたので・・・

1人分でいいと思うが・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る