第14話 丘蒸気

「ねえ、実くん、そこはどこ」

「大井川です」

「静岡県の?」

「はい」

廃藩置県は知ってるようだ。


「ほら、あそこです」

SLが走っているところを指差す。

「うわー、本当だ。丘蒸気だ」

美子さんは、感動している。


懐かしいんだろうな・・・

生きている間は、乗っていたのだろうか?

もっとも、いろいろと疑わしいが・・・


しばらくすると、川のほとりに下ろされた。


「美子さん、どうしました?」

「実くん、待っててね。私、1人で見てくる」

飛んでった・・・


好きな物の前だと童心に帰るというが、今の美子さんは、まさにそれだろう。

ほのぼのしてきた。


でも、即効で帰ってきた。

「うわーん、実くん、あんなの丘蒸気じゃない」

「どうしたんです?美子さん」

「あのね、あのね」

取り乱している。


もしかして、電車か?

いや、それならわかるだろう・・・多分・・・


俺は、もしかしてと思い、訊いてみた。

「美子さん、その丘蒸気、人間の顔みたいなのが、ありませんでした?」

「うん、あった・・・怖い・・・丘蒸気じゃない」

やはり・・・トー○スか・・・


「美子さん、あれも蒸気機関車です。特に子供たちには人気です」

「やだ。私は認めない」

ふてくされてしまった。


頑固なのか、駄々っ子なのか、

どの道、手が付けられない。


「美子さん、帰りますか?」

「うん・・・」

まだ泣いている。


まあ、どの道乗れないし、本物の蒸気機関車を見れただけでも、満足だろう。

美子さんは、立ち直りは早いので、すぐに治まるけど・・・

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