第6話 Good-bye私の初恋
学校に着いた。私の学校。そしてお父さんが通っている学校。外観は何一つ変わって無く、良く観たら少し新しい感じの学校。に来た。校舎の中に入り、美術室の戸を潜る。教室には誰もいなかった。
「あの……」
「はっ、ハイ」
お父さんと私の間に何か気まずい。そんな感じの空気が流れる。その間も私の心臓はドンドコ鳴り響いていた。
「すみません……何か変な感じになってしまって。ありがとうございます」
「いっいえ。ソンナドーデモイイデスヨ」
「それとごめんなさい」
「へっごめんて?」
「その……見てしまって……」
パンツをガッツリ見たことを蒸し返されて再び私は赤面になる。更に気まずくなる。なーんでこんな空気が読めないのかなぁ。ほーんと昔も全然変わんないんだね、ウチのチチオヤは……そーゆーところがちょっぴり可愛いのだけれども。ときゅるンと来ている胸を抑えて。
「そー言えば何で美術室に?」
「あのー自分美術部員なんですよね」
回答の答えになってない!!あーもーやきもきする。そー言えばアレ?美術部って??何かお母さんから何か聞いたような??と私は心に何かしらの引っかかりをあるのを感じる。
「……だから何ですか?」
「いやーその今日のお礼?というかお詫びって訳じゃないんですけどーそのーー……」
あたふたするお父さん。顔が赤くなっていく。それはきっと私も同じなんだろうか。
私の心臓がさっきからドクドクと煩い。けどソレはきっと私の心臓だけじゃない。同じ音をお父さんも鳴らしている。見れば分かる。そしてきっと同じ事を思っている。
「ごめんなさい、初めて会った人にこんな事を言うのもおかしいのですけど!!」
顔を真っ赤にさせる。見ているこっちもその緊張感が伝わってくる。そして次に言うことが分かる。
それは私も思っていたこと。けど……。
「けどやっぱり何か言わなくちゃ……ううん……伝えたい伝えなくちゃと思ったんです!!」
シンクロする。ここに来る前の風景。ここに来る前にぶつけられた想い。愛。鷺沢君の告白。それとシンクロする。
「すみません!!好きになっちゃいました!!」
パアンと何かが弾ける音が聞こえた。確かに聞こえた。
嬉しい。嬉しい。幸せ。本当に幸せ。最高に幸せ。好き。超好き。超大好き。……誰よりも愛してる。私の愛の風船が破裂した。濁流のように止まらない。好きって事が。抱きしめられたいという願いが。キスをしたいと言う欲望が。幸せになりたいという気持ちが。
けど。けど。けどそれは!!と張り裂けそうな葛藤が。
電流のようにお母さんが言った言葉を想い出した。それはお父さんとの馴れ初め。のろけ話だった。
そして分かってしまった。
俯く私。包まれる沈黙。気まずくなったのかお父さんが
「あーそーだ!!そー言えば名前も名乗って無いのに告白なんて変ですよね!!僕の名前は!!ノザギリ…ふぐっ!」
人差し指をお父さん唇に押し付け、言葉を遮る。少しザラザラした唇。愛しい。
「それ以上はダメ」
赤くなりながら涙を片目から溢れさせる私。微笑んで。
「ありがとうございます。私もヘンなんですけど。サイコーに嬉しい」
口を閉ざしながらも目を見開くお父さん。そんな彼に。私が愛してる彼に続ける。
「けどそれはダメ」
涙を止める方法なんて分からず止めどなくこぼれ落ち始めた。
「私もヘンなこと言うけどもう少し聞いて」
哀しいような。切ないような。けど確実に愛しい目をしているお父さんは黙りながら私の言葉の続きに目を傾ける。
そんな目で見ないで。心が千切れちゃう。そんな気持ちをグッと堪えて私は続ける。
「私は出会ってはいけなかった。けど出会わなければいけなかった」
お母さんの言葉を思い出す。嬉しそうにはにかみながら話す未だに恋をしているお母さんの言葉。
『あの人との出会いわね。間違いなんだって』
「私の初恋でした。私は貴方のことが好きです。そしてたぶん。ううん絶対あなたの初恋もコレなんです。
『初恋の人と間違えたんだって。私と瓜二つ?ドッペルゲンガーみたいに似ている人なんだって』
「けどこの恋は実らない。実ってはいけない」
『初恋の人にはフラれたけど、ソレがとても変なフラれ方で。ソレでやっぱりその事がずっと忘れられなかったらしいの。その言葉って言うのが……」
リフレインするお母さんの言葉。私は言わなければならない。私の初恋を終わらせるために。……そして始めさせるために。お父さんの恋を。お母さんの言ってた記憶と私の今の言葉がシンクロする。
『「私にとても似ている人。けれども私じゃない人に出会う。その人が貴方の運命の人。私はソレを伝えるために貴方と出会った。……だからもう少し。もう少しこの言葉を覚えていて。そして信じてこれからの最愛の人と最高の出会いを。そしてその人に描いてあげて貴方の愛を精一杯込めた絵を」』
背伸びをして唇と唇を重ねる。電光石火の私の弾丸に目を見開き呆然とするお父さん。浅い柔らかいキス。
自分の指先で自分の唇を添えながら私は分かれを告げる。
「さよなら私の初恋の人。………戻ったら私はまた初恋をやり直すよ」
意識が移ろいゆく中、私の頭に浮かんだのは鷺沢君だった。
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