第5話 鮮やかな茜色の夕焼け
うるさい。とってもうるさい。とってもうるさいから黙ってて欲しい。高鳴る心臓の鼓動に気を取られているが、視線はずっと外すことができない。
……お父さん。お父さん。お父さん。あぁお父さんだ。分かるよ、やっぱりお父さんなんだ。
私が見つめる先少年……お父さんが不信げに話しかける。
「……あの〜」
「ひゃっひゃい!?」
ビクッとなる私。鼓動が加速する。もーうるさいからとりあえず一旦死んでくれー、私の心臓ー。うるさいよぉ。
少年は言葉を続ける。
「そのー……手」
「てっ手って!?」
「いやー……さっきから、そのー繋ぎっぱなしなんですよねぇ」
「ゎわあ!?わわぁ!!!ごっ、ごめんなさい!!!!」
ブオォンと繋いだ手を大回転させて勢いよく手を離す。その勢いが私の心の動揺とシンクロしてるのかぐるんぐるんと宙を舞いつつギャース!!と叫びながら背中が地面につく。なっなにをやってるんだ?私。なにやってるのよ!自分とハワワッと動揺をどうしようとすればするほど暴走する。
「だっ大丈夫ですか!?」
さっきとは逆に今度はお父さんが私を立たせるために手を差し伸べる。かと思ったらコンマの世界で顔が赤くなり顔を横に背ける。背けたまま私に言う。
「あっ……あの見えてます」
「へ?」
「だから見えてるんです!!隠してください!!」
「なっなにを??」
「…………スカート……めくれてます」
お父さんが顔の赤さがピークに達した。私も下を向いたらスカートが上にめくれており青いパン……
「ニャーーーーーース!!ニャス、ニャーーーーーーーーーーース!!!!!!」
お父さんの赤ささと呼応するかのように赤く顔が染まる私。と同時に反射的に飛び跳ね、飛び起きお父さんの顎にコークスクリューアッパーが鮮やかにキマる。
「ぐべし!!」とまとも宙で3回転半を決め、筐体にぶつかるお父さん。
なっなんなの!?何で青なの??手抜きなの??いやいや。イヤイヤイヤ。そこじゃない!!けど、見てんじゃ無いよ!父親が。いやっ父親じゃないか。もーマジであり得ない。もー。あーー。あーーー……分かんないよぉ。つかいるんじゃないよ、バカオヤジ。
何だ何だ。とゲーセン内の客が私とお父さんの周りを囲みだし騒ぎが広がり始める。
コレ……ヤバァ………
「とっとにかく、出ましょう!!」
「へ……は………」
「いいから!!ホラッ!!早く!!」
状況を呑み込みきれてないお父さんの手をしっかり握る。そのまま駆け出してゲームセンターの自動シャッターをくぐり抜ける。
「ちょっ……ちょっと待ってくださっ……」
お父さんの言葉を無視して、見知ってるけれど少し知らない商店街を駆け抜ける。
走る。奔る。駆け抜ける。チラリと後ろを向く。繋がれた手。損傷が増えた眼鏡。見知った顔。けど始めてみた顔でもある。若いお父さん。心臓がまたドキリと跳ね上がる。それを打ち破ろうとかまた歩を早める。
頭の中がぐつぐつに茹でたちぐわんぐわんとしてる中、心の中であーーーーもーーーーーーー!!!!!!叫びだす。
何で?何でなの??何で???こんなにドキドキしてるの????何で何で何でなの??
答えは初恋だと一目みた時から気づいている百合菜。けれどもソレを認めたら何かが変になってしまいそうな気がして気づかないをする。
繋いだ手が汗ばむのを感じつつ後ろを振り向かないまま走り続ける事しかできなかった。
鮮やかな茜色の夕焼けの美しさが、焦がれに焦がれ、暴走する自分の心のぐちゃぐちゃ具合と全く逆だなと。百合菜は思った。
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