第4話 ファミコンとファザコン

ぐにゃりとした風景と鳴り響く踏切の警報音が暗闇に引き寄せられ遠くとなる。目の前が真っ暗なセカイに私がいる。コレがおかーさんが言ってた時のセカイなのかな?と思ったのもほんの一瞬でセカイが再び開かれた。


カンカンカンと鳴り響く警報音。で私は再び意識を取り戻した。電車が走り抜けて遮断機が上がる。そこにはさっきまでいた。


鷺沢くんはいなくなってた。


おかーさんのヴァンパイア指南で私はタイムリープをしているとそんなありえない事が多分あり得たんだろうと自分でも意外と冷静になっていた。と言うかそもそもヴァンパイアだし何を今さらと思いながら私は試しにスマホで電話をかけてみる事にする。コレは中々鉄板の流れだろう。


かける相手は、鷺沢くん……の顔が一瞬よぎるが顔がまた熱を帯び始めるのを感じ、顔をブンブン振り回す。……お父さんの番号へと電話をかける。がやはり繋がらない。


辺りを見回してみるとやはり私の知ってる駅前とは違う。駅ビルも無いし、コンビニは違うお店だった。


私は指南ので言われたとおりまず今がいつの時代なのかの把握に入る。飛ばされる時代はランダムらしい。ということで見覚えないコンビニへと足を運ぶ。入った目の前にあるスポーツ新聞で日付を確かめる。


日付は20年以上前だった。過去に来たとは分かっていたけれどもこーいった明確な証拠を突き付けられると目がくらんだ。


そっかー……。アタシ、マジで来ちゃったじゃん。ヤバいマジヤバい。アタシ、マジヴァンパイア。


……って悲観に暮れててもしょーがない。私は、おかーさんの指南書(対策編)の内容を実行に移した。


タイムトラベルしちゃった時の対応

①ただひたすら待て。タイムトラベルの期間はどんなに長くても24時間以内に元の時代に帰れる。ひたすら待て。


②めちゃくちゃドキドキしたらまた元の時代に帰れるよ。


③鉄板だけど、過去に関わるな。自分の知り合いや自分自身に関わると過去が改変してしまう場合もある。


……意外とヌルゲーじゃない?タイムトラベル?③を気をつけなければいけないのだろうけれども20年前なので勿論は私も友達も……鷺沢くんもいない。


ボフッと顔がまた紅くなる。……そーか私、鷺沢くんに告られたんだ……。あーどうしょうちょい気まずいよ〜って駄目駄目!!あードキドキしたらまた鷺沢くんにまた会っちゃう!おさまれーおさまれぇクールダウン。と。


折角のタイムトラベル。貴重な体験、こりゃ勿体ない。知り合いなんていないし、どうせならめちゃ楽しんで帰りたい!!と私の持ち前のポジティブシンキングで歩き出す。


歩きながら周りをキョロキョロ見回す。20年前の我が町。20年経っても対して変わらない。タイムスリップ感がほぼほぼ無い悲しみよ……とちょっぴり悲しくなる。


けどやっぱりちょっと。というかだいぶ違うものもある。JKが怖い。黒い。黒すぎる。ルーズソックスがヤバすぎる。太過ぎる?だるんだるん。ヤバァと前の山姥みたいなJKを見て言いそうになるのを喉元で止める。けれど通り過ぎた山姥、今の見た?マジでアイツ、ダサすぎない??チョベリバじゃない!!チョベリバ!!とごってごってストラップが付けられたガラケーをいじりながら笑い合っていた。


チョベリバって何?少なくともディスられてるっぽいんだけどとスマホで調べようとしたけど、ネットは繋がらない。マジあり得ないんですけど。……まぁいいや、後で調べようと私は知らないお店があったことに目がいく。ゲーセンだ。……ここ今だと美容室になってる。と気になったので店内へ入る。入ってみるとタバコの臭いが籠もっていて少しうへぇとなる。ジャラジャラとした音が騒々しい。


私は多分あるはずとキョロキョロ店内を探して、またも新種の山姥が群を成している方へと目をやる。


「あった!プリ!!」


プリント倶楽部と書かれていた筐体の前に山姥が長い列を作っていた。私もそこに混ざる。山姥は一人だけ違う種族であるかのように私の方へと目をやりホワイトキック、チョベリバ、チョーエムエムとこそこそ言ってる。だから何その呪文?お前ら魔女なの??とイラッとしつつ待っているとやがて私の番になる。


カションカションとコインを入れて。だっさいフレームに唖然とする。とりあえずポーズをキメて取るも出てきたプリのクオリティの低さにさらに唖然とする。もうあんぐり。


「私……無理だ。この時代……帰りたいよぉ」


とあまりのプリのダサさにノスタルジックになってる私。しょぼんとしてると大きな叫び声が聞こえてそちらの方へ目をやる。


「てめぇ!!何だ、ナメてんのか?ぉおい!!」

「いや……ぜっ全然舐めて無いですよ。ホッホントに!舐めてないです」


格ゲーコーナーの所で何か揉めてる。一人は明らかに世紀末感漂うモヒカンヘアーのタンクトップを着ているヤンキー。もう一人は後ろから顔は分かんないけど、髪の毛が耳が隠れるくらい伸びていてちょっと長めの黒髪と学ランを着ている男の子。


学ランの男の子はあわあわしながらも言葉を続ける。


「いやホントに舐めて無いですよ!!ただ僕がこの格ゲーがたまたま強くて勝ち過ぎちゃって!!いやホントに舐めてないです。僕が強いだけで決してあなたを舐めてなんて無いです!!」

「それがナメ、何だよぉ!!」


くらえ俺の怒りのリアル昇竜アッパーとモヒカン羽回転しながらアッパーを繰り出す。学ランの子はウワァーウワァーウワァーと言いながら宙を綺麗に舞い、重力に負けてドスンと背中を地面に打つ。モヒカンはズンズンと風を切らせて店を出る。


「いたた……酷いなぁ、あの人。暴力って酷いなぁ。ゲームの中だけでしてよ、暴力なんて」


ヨロヨロして立ち上がろうとする男の子。さっきまで唖然としてた私もハッとなりその男の子の方へと駆け寄る。


「大丈夫ですか?」と手を差し伸べる。


「あーすみません。何かすみません。……ありがとうございます」と男の子が手を握って起き上がろうとする。


目が合う。


時が止まった。


……かのように感じた。


驚いた。目と目が合った瞬間に胸が高鳴った。鼓動が聞こえる。ドクンと。


一目惚れってこーゆー事なのかもしれない。目と目が重なっただけなのに。


私がよく知ってる人。けれども私が知らない人。だけどやっぱり世界で一番愛してる人。


「おとーさん……」とポツリ呟く。


何で?何で?私こんなにドキドキしてるの??とドキドキしてる音を止めるように強く胸を握りながら。眼鏡がヒビ割れてる少年を。ただ見つめる事しか出来なかった。蕩けるような熱い視線とともに。

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