第3話 タイムトラベルメイカー

「野崎利先輩?」

「ふへ?」


名前を呼ばれて、ぼへっと気が遠くへ行ってた私が戻ってくる。


「野崎利先輩、大丈夫ですか?さっきから……そのあのーぶっちゃけぬボッとしてますよ、こうぬボッと」


とゴミ袋とトングを両手に持った同じ部活の鷺沢くんが私に言う。


高校の近くのそこそこ大きな運動公園で私は部活動をしている。


何の部活動かというとヒントはトングとごみ袋を私も持っている。答えはボランティア部。と別に驚く事も無い答えなのである。


私はヴァンパイアと人間のハーフである。キスをしなければ生きていけないハーフである。と人生に中々の大きな岐路に急に立たされて私は色々と考えた。そうだ人助けをしよう!!と気持ちが決まったらそのまま直進。私はそうキメた次の日に入部届を持って帰宅部からボランティア部へと華麗にジョブチェンジをキメた。


待て待てヴァンパイアとのハーフと人助け、ボランティア部って繋がらなくない??と思ったら、ところがどっこいしょと私の中では大いに繋がる。


お父さんは私とキスをして私の命を助けてた。私が知らないところで?と言うか私の当たり前の日常で私の命をすくってた……娘の気持ちとか考えて、色々と葛藤しながら。なんか私はソレが凄いカッコヨク見えた。=人助けはめちゃくちゃかっこいい事なのだ。そしたら私もやりたーいなぁ。だからボランティア部へのモンコを開いたのだ。きっとこのゴミ拾いも誰かを救っているのだ、きっと。


「あのー、野崎利先輩?またぬボーッとして……」


「あーもーダイジョブダイジョブ。てゆーかぬボッとしてないし。私がぬボッとなんてあり得なくない?こんなにカワイイのに」


と心配する鷺沢くんをサラリと交わして、足元に落ちてたタバコの吸い殻をトングで器用にひょいっとすくいゴミ袋へポイッと捨てる。


鷺沢くん。私の一個下の一年生。前髪がパッツリ整えられたおかっぱ頭の眼鏡ボーイ。得意はけん玉、趣味は読書とカードゲームとまぁぶっちゃけ中々陰キャ。なのだけれどもこの幸薄そうなビジュアルと真逆?なのか凄い部活動に真剣。凄い誰かを助けたい。と言うことに真剣。


そんな鷺沢くんはどことなくお父さんに似てる。いや。いやいや。別に似てないんだけどね。寧ろ眼鏡と幸薄そうくらいしか共通点なんてないし。いやいやいや。


けどこの鷺沢くんは中々のやるときはやるオトコ。だと私は知ってるのだ。三年の先輩が止めて一人だけになってしまっても部活動を欠かす事無く続けてる。花壇の水やりとか。道に迷ってるおばーちゃんに一緒にその場所へ連れていいったりとかちらほら私はみた。うん、鷺沢くんはやるオトコノコなのだ。そして可愛い。


「ほらほら!早くやろやろ!!人助け!私たちのゴミ拾いで世界を救うんだ!ブチョー!」

「スケール感が違いすぎますよ……先輩……」


みたいな感じの二人きりの部活動。私はそれがどこか、どんどん私の中で大切になっていってるのが分かった。






夕焼け。ボランティア部の活動が終わり私と鷺沢くんは二人並んで下校する。


「やっぱ……この季節になると食べたくなるーあんまーん」

「行儀悪いですよ、歩きながら食べるの。先輩」

あんぐっとあんまんを頬張る私に鷺沢くんはツッコミを入れる。


「だってサイコーなんだもん。イーコトした後の甘いモン、サイコーだよ?ブチョーもどう?サイコーだよ」


と私は食べかけのあんまんを口元へ向ける。ゴクリとあんまんに視線を向けた私の方を向いて少し頬が赤くなる鷺沢くん。


「ぼっ……僕は、だっ大丈夫です。家に帰ってから夕飯食べますから」

「ふーん。じゃあ食べちゃお」


あんぐり大きく口を残りのあんまんを一気に口の中へと入れた。


下校から私達は駅へと向かっている。都会でも田舎でも無いフツーの街。埼玉県のフツーの町。鷺沢くんとフツーの会話。フツーの下校。


「僕、先輩が部活に入って先輩がこんな人なんだと知りましたよ」

「何?こんな人ってヒドくない」

「いっいや、その…別に悪いこと何かじゃなくて、と言うか寧ろ良いことというか」


慌てる鷺沢くん。歩きながら言葉を続ける。


「いや、その!何というか良いと言うか、先輩ってその近づきづらいと言うか学校でも目立っていて、先輩の周りにはいつも色んな人がたくさんいて……その……何か僕なんかとは喋ってくれないみたいな印象が……」


慌てながら顔が赤くなりながらしどろもどろに鷺沢くんが言葉を繋げる。


キュウンときた。キュウンときた?うん?キュウンときた。あっなんか困らせたい。あわあわする鷺沢くんってチョー可愛い。


「何?ブチョー。私の事、前から知ってたの?というか見てたんだぁ、へぇ」


「いや!見てたってそんなストーカーとかじゃないですよ!!先輩が目立ってただけで」


「知ってる知ってる。私が可愛いからめだってるのね。だけど今の鷺沢くんもそのあわあわ感が可愛いよ」


石のように固まる鷺沢くん。タコかよってくらいに顔を真っ赤にさせてる。少し間を置いて下へうつむく。ん?どーしたの?と私が問いかけるとか弱く言葉を紡ぐ。踏切の前で鷺沢くんは歩みを止める。


「………………先輩はそうやっていつも自分に満ち溢れてる。かといってソレを人に誇示するようなこともしない。部活動だって、いつも一生懸命だ。本当に一生懸命。一生懸命誰かの助けをしたいって。どんな時もひたむきです。色々知らなかった先輩をこの一ヶ月で知ることができた。色々と誤解をしていたことも知れた」


「そんな先輩が大好きです」


「ほへ!??」


電光石火の鷺沢くんの告白。顔を上げる。真っ赤な顔に真剣な眼差しを私へ向ける。えっそんな見つめないで。そんなマジで見つめないで。


カンカンカンと踏切の音が鳴り始める。と同時に鷺沢くんはダッシュで私に背を向け踏切の向こう側へと行き、振り返る。


「先輩!!すみません!!僕!!!先輩の事がめちゃくちゃ大好きなんです!!」


ぇええええええええええええええ!!!??????


いやっ………ちょっ!そんな急に言われても困るというか……ッ。いやちょっと待って。わあわぁ!!あーもう分かんない!!いやっこれどーすんの??これ????


さっきとは真逆の立場に。どんどん顔が熱くなってる。きっと私は今めちゃくちゃ赤くなってる。わあ困ると言うか。マジでどーすんの???


タラッと鼻から流れるモノを肌で感じ。手で確かめる。拭った手には赤い血がって鼻血出してるの??うわぁハズいうわぁどうしよ?


と思ったの同時にセカイが歪んだ。


カンカンカンと踏切の音が大きく私の頭に響く。視界がぐにゃりと歪む。線路も逆側にいる鷺沢くんもぐにゃんぐにゃんに溶けていく。


……え?何コレ?と思うのと同時におかーさんのヴァンパイア指南(中級編)を思い出す。


吸血鬼は自分の血が出てかつ、自分が危機的状況に陥ると時を渡る力が発動するのだ。と。


へーそんなん漫画でみたことなかったーと流してたけど、今なってる。多分ソレになってる。マジギャグじゃん。


野崎利百合菜。初めての告白。初めてのドキドキ。初めてのタイムリープ。と一部ヴァンパイアハーフでしか体験できない初体験を一気に向かえました。

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