魔法少女誕生!? 後編


 白い壁の部屋、恐らく格納庫に戻ってくる。するとようやく手足が解放される。

 ほっと一息吐く。しかし、まだ出かたが分からない。この黒い球体をいじればいいのかと触れてみる。

 すると。

「ひぃ!?」

 黒い球体が一気に透明になった。中に何か入っている。何か、というかそれは明らかに。

「の、脳……」

 なんならオーノーとでも言ってやりたかったが、そんな空しいことをしてもなんの特にもならない。

「お父さん! これ何!? 脳が! 脳が!」

『む、見てしまったか。それは鹵獲したワンダーランダ―から摘出した脳味噌だ。それがあるおかげでアリスは空間改変の影響を受けない』

「魔法の力じゃないの!?」

 もう何もかも裏切られた気分だった。

『何を言う。そのワンダーランダ―の脳から魔力を抽出し、武装へと変換しているのは間違いなく、私の魔術理論によるものだ。降りて見てみなさい』

 音も立てず静かに、天井が開いた。どうやらここから出られるらしい。椅子をよじ登って、天井の淵を掴んで外へと這い出る。

 自分の下にあったのは黒。黒の装甲だった。しかし、そこには何やら外国の文字やら文様が描かれていた。

「……これが、魔法要素」

 納得はいかなかった。というか、骨折した時のギブスによくある寄せ書きに見えないこともないのが嫌だった。辺りを見回すと下に降りられるようにタラップが横付けされていた。それでアリス・ニグレドの真下まで来た。

「……ノーファンシー」

 その見た目は、まさしく人型ロボットだった。全体的に装甲は丸みを帯びている。違うか、とにかく角ばっておらず曲線で構成されている。その身体のラインを沿うように例のラクガキ……じゃなくて魔術の記号が記されている。頭の上に二つ、リボンに見えなくもない……見ようと思えばそう思えるようなモノがあった。アンテナか何かだろう興味もない。あと腰回りがスカートっぽかったが、下から見上げればそれは推進装置だと分かる。男の子だったらパンツとかを期待するところだろうか、と魔法少女なんてワードを思いっきり投げ捨てた思考に入る。

 そこに足音が聞こえてきた。振り返ってみれば、お父さんがそこに居た。

「よくやった澄香、さすがは私のむす」

「ていっ!」

 ローキックを脛にぶちかました。

 これぐらいやっても許されると思う。

「魔法少女って言ったのに!」

 怒るところはそこではない気もした。そもそも娘を戦場に投げ出すとは何事かとか。そう言うべきだったのだが。私の頭はそれでいっぱいだった。

「……だっ、だから、アリス・ニグレドは私の魔術理論で」

「もういい! 帰る!」

 そういって立ち去ろうとする。

 しかし。

「…………ここどこ。島だったよね。私達の家、内陸だよね」

 そう、色んなショックで忘れていたが、今日見た海が、初めて生で見た海だった。正確にはモニター越しだけど。

「対ワンダーランダ―用に改造された無人島だ。私達はここで暮らすことになる」

 私はその場にへたり込んだ。いやそのまま寝転がった。もう、何もかもにやる気が出なかった。遠くでお父さんが、娘が倒れた医者を呼べだの騒いでいるのが遠くに聞こえる。考えてみればさっき起きたばかりなのだが、もういっそこのまま寝てしまうことにした。


 白い蛍光灯の光。家のLEDは暖色に変えていたはずなのに。

 真っ白なベッドから起き上がる。そして、少しずつ思い出す今日起きたことを。

「……夢じゃ、ないのかぁ……」

 夢であって欲しかったと切に願ったが、それは叶わなかった。頭を抱えていると、扉がノックされる。

「……はい」

 ぶっきらぼうに返事する。

「起きましたか……あの具合が良かったら、上亜里司令……お父さんが呼んでいらっしゃるので、来ていただけると……」

 なんか声から苦労が伝わってくる。まあ確かに、この職場は楽しくない。絶対楽しくない。そんな事を考えながら、立ち上がり扉の方へ。

「行きます。私も聞きたいことが山ほどあるので」


 そこは大きなモニター一つと、その前にいくつかデスクが並べられ、その上にはパソコンが置かれていた。職員の人がパソコンをいじったり、書類を持って行ったり来たりしている。デジタルなのかアナログなのか。モニターの反対側、一番奥には、なんか偉そうな大きい机があった。

 そこにお父さんはいた。

「よく来た澄香。メディカルチェックも異常なし。心配したぞ」

 いつもの父だった。ぶっきらぼうで、だけど優しくて、そしてどこかおかしい。

「なんで呼んだの? そっちの用が済んだらこっちの質問にも答えてよね」

 睨み付ける。

 お父さんはそんな私を見え、やれやれと肩をすくめる。怒りが増した。

「今日から正式に対ワンダーランダ―本部へ配属になったお祝いをしようと思ってだな。お前はショートケーキとチョコケーキ、どっちが好きだったかと思っ」

 ビンタした。思いっきりビンタした。他に言うことがあるだろう。

「どうして私なの!? どうして私が戦わなくちゃいけないの!?」

 戦うのが嫌なわけじゃ……ううん、嫌に決まってる。

 自分はまだ中学二年生だ。どうしても自分でならなくてはならない理由が欲しかった。

「ってて……。あー、ゴホン、それはだな、お前が私の作ったホムンクルスだからだ」

 時が止まった。比喩だが、個人的には思考も肉体も完全に停止したように思えた。周りの職員の人も静まり返っていた。なんなら動きも止めていた。唯一のアクションはその表情、職員さん達は皆「あーあ」という何ともそれ以外には表現しがたい表情をしていた。まあ、私も逆の立場なら、間違いなくあの表情を浮かべていただろう。なんとか気を取り直す。頑張った。

「お母さんは!? 私が生まれた時に死んだっていう! 写真だって!」

「嘘だ。お前に母などいない。写真は合成で作った。あ、もちろん魔術で」

 ビンタした。我慢出来なかった。

「私は! 戦うために造られたの!?」

 お父さんは赤くなった頬をさすりながら。

「そうだ。ワンダーランダ―の存在は、遥か昔から確認され、その対策も昔から行われてきた。その最高傑作こそがお前だ。澄香」

「何が最高傑作よ! 私は普通の女の子が良かった!」

 俯く、目に溜まった涙を見られたくなくて。今の自分は、ファンシーな魔法少女になりたいとさえ思わないだろう。それぐらい苦しかった。

「奴らが、本格的な侵攻を開始しなけば、そういう道もあったかもしれん。しかし、現実はそうはいかなかった」

 私はそこで頭を上げる。涙が一つ零れ落ちる。

「……ワンダーランダ―が来なかったらお父さんは私を普通に育ててくれた?」

 お父さんは驚いていた。私の涙にだろう。

「……ああ、もちろん、ワンダーランダ―の侵攻が止まりさえすれば、その時から普通の生活に戻れるとも」

「嘘だよ、そんなの。昔からやってきたことなんでしょ? 私だってもう何人目かの存在なんでしょ?」

 お父さんはいつのまにか机から離れ、こちらへと来ていた。私を抱き寄せる。

「嘘じゃない。お前と過ごした十四年間。それは私にとってかけがえのないものだ。最初こそ、ワンダーランダ―を倒すために生み出した。だが、私は今、お前を娘だと思っている。ホムンクルスだというのは事実だが、私にとってお前はもはやホムンクルスではなく私の娘だ。ああ、本当にワンダーランダ―さえ来なければと、そう願い、奴らを呪ったことは一度や二度ではない。信じてくれ澄香」

 お父さんの顔を見上げる。その瞳は潤んでいた。私の頬に雫が落ちる。

 それだけで、嘘じゃないと信じられた。

 だからこそ、お父さんの胸に顔を押し当てて泣いた。泣き叫んだ。戦いが怖かった。造られた存在と聞いてショックだった。なによりお父さんに裏切られた訳ではなかったと知って安心した。

 一しきり泣いた後、私を呼びに来た時の職員さんがお茶を持ってきてくれた。

 ハンカチも一緒だ。

「ありがとうございます」

「……無理もないわ。まだ十四歳なんだもの」

 そう言って、その場を後にする。側に寄り添ってくれていたお父さんが聞いてくる。

「落ち着いたか?」

「……うん」

「そうか」

 頭を撫でてくれる。もう中学生にもなってるのに、気恥かしい、だけど安心する。

 落ち着いてきたからか、ふと思った疑問を口にする。

「……ワンダーランダ―の脳って、なんだか人間の脳とすっごく似てたけど――」

 ふと思ってしまったのだ。仕方がないのだ。ふとした疑問は恐怖に変わり、続きを紡げなくなる。しかし、お父さんは言葉の先をなんとなく察したようで。

「まだ確定した訳ではないが、研究機関によれば高い確率で『並行世界の人間』が奴らの正体らしい」

 事もなげに言った。私はお父さんの顎にアッパーを見舞った。

 もう無理だった。

「お父さんは私に人殺しをさせたの!?」

 異形の化け物なら、その生命を奪ってもいいのかという命題は、中学二年生には重すぎた。短絡的に、突発的に、答えを求めてしまう。

「痛ぇ、まさかお前がそんなキレのあるアッパーが打てるとは父さん知らなかった……はあ、いや、まだそう確定した訳ではないというのは慰めにならんかもしれんが、アレはもうこちらの世界の『人間』とはかけ離れた存在だ。そう割り切るしかない……すまん」

 頭を下げられる。もうどうしようもないことなのだと察する。空間を改変し侵略してくるワンダーランダ―を知的生命体と知りながら、それでも自分の住む世界を守るために戦うしかないと。

「あー、それでケーキのことなんだが」

「食べたくない」

 私は部屋に戻った。この現実を受け入れるのには、時間がかかりそうだ。


 数日後。

 戦闘区域。

 ワンダーランダ―に侵食され、いつもの海上は緑の丘になっていた。敵のラビットに、変異種のルナティックラビット、中級兵士のマッドハッターも居た。

 私はその光景を眺める。

 何故か、黒から白へと変色しつつあったアリスを駆り、戦場へと躍り出る。ラビットなどすれ違いざまに切り捨てる。

 こちらと同じマジカルレーザーブレイドの様な爪を持つルナティックラビットと刃がぶつかり合う。両者共に、使っているのは右腕、残った左腕を互いに振るう。

 しかし先に届くのはマジカルビームランチャーの光弾だ。敵を吹き飛ばし、群れの奥で指示を飛ばしているマッドハッターへと向かう。

(ナゼ、アナタタチハ、タタカウノデス? トモニ、ワンダーランドニ、イキマショウ?)

 敵の精神攻撃だ。私はそれにこう返す。

「私が戦うのは、愛と平和のため」

(ソレナラバ、ワンダーランドデ、カナエラレマ――)

「じゃない! 私が! 魔法少女でいるためだぁぁぁ!!」

 空中に魔法陣が展開される、父から教わった魔法を試す。

『アレフ・テス・ザイン』

 巨大な剣がマッドハッターを撃ち貫く。指揮官がやられたのを見てワンダーランダ―達は撤退を始める。

「えー、もう終わりぃー? もっと戦わせろー!」

 不満げに頬を膨らませる。

 しかし、その姿は父からはこう見えていた。

「娘がグレた……」

 職員の一人は言う。

「いやそりゃああなりますよ」

 相次ぐ戦闘、中学二年生、上亜里澄香は壊れていた。彼女のアイデンティティは原点回帰を起こし、自分が魔法少女であるという事実のみが支えとなっていた。

「それよりもうすぐ、アリスがアルベドになりますよ。これで

 この職員は魔術畑なのか、白くなる澄香の機体を見て嬉しそうに言う。

「嬉しくない! そもそも、そんなものワンダーランダ―の後追いをしているようなものだ!」

「ま、娘さんが神になるか、ワンダーランダ―が全滅するかの競争ですね」

「ああもう、最悪だ……どうして私は、無理にでも上層部の決定を断れなかったのか……」

 その時、警報が鳴り響く。

「敵増援です!」

「悩んでる暇もなさそうですね」

 指令室のモニターに映るアリス。声が聞こえる。

『魔法少女アリス! 私のマジカルレーザーブレイドの錆になりたい奴はどいつだぁ!』

 

 ああ、娘よ、お前のなりたかった魔法少女させられなくて本当にすまない。あとレーザーブレイドだから錆は付かないぞ


 ああ、お父さん、私、今、立派に魔法少女やってます。なんか機体が白くなってますが敵の返り血でしょうか?

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魔法少女って言ったのに! 亜未田 久志 @abky-6102

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