魔法少女って言ったのに!

亜未田久志

魔法少女誕生!? 前編

 私、上亜里澄香かみありすみか、中学二年生! 実は、まだ魔法少女が好きなのは内緒。でも最近は深夜アニメにも魔法少女モノが多いし、ぶっちゃけてもいいかなぁなんて思う。でもやっぱり一番好きなのは少女漫画の魔法少女! 町で起きる騒動を魔法で解決! かわいいよね。あー、私も魔法少女になれたらなー、なんて。

 そんな事を想いながら、私は宿題を終わらせてベッドに入る。

(おやすみなさい……)

 明日も良い日だといいなぁ……。


『おはよう澄香』

 お父さんの声……? んっ……眩しい……? 白い壁、ってか、アレ? 身動き取れない!? 何で!? ここどこ? 水槽の中? ガラス張り?

「お、お父さん? どこに居るの? ここどこ?」

 目の前の白い壁に映像が映し出される。

 どうやらモニターになっているらしい。

『ふふふ、知っているぞ澄香。お前が、小学校を卒業しても、魔法少女は卒業出来ていないことを!』

「なっ!? って、そりゃお父さんには別に隠してなかったじゃん! 漫画の新刊ついでに買って来てもらったりしたじゃん!」

『ふははは! そうだったな。まあそんなことはどうでもいい。重要なのは、澄香! お前が魔法少女に選ばれたということだ!』

 ビシィっと指差された。しかし、その言葉に、一瞬ドキッとときめきのようなものを感じてしまった。

「私が、魔法少女に? この現代日本で?」

 そんな馬鹿なあり得ないと、私が私を否定する。

『何を言う。父さんこそが現代に生きるヘルメス学派の魔術師、いや錬金術師だというのに』

「魔術師!? お父さんが? それってお給料出るの!?」

 我が家の家計はどうやって賄われているのか、大いなる疑問が湧いた。

『澄香よ、私はこう見えても公務員だ』

「うそぉ!? 聞いてないよそんな事!」

 というか相変わらず動けない。手足が固定されている。よくよく辺りを見回すと、なんだかメカメカしかった。私が固定されいる目の前、視線を少し下げると真っ黒い球体のようなものがあった。

『何せ、国家機密だ。家族にも話せん』

「……もう、分かった。いやホントは結局なにがなんだか分かってないけど! とりあえず分かった。だから、なんで今、私動けないのか教えてよ」

 この椅子のようなものに座らされているのはいいのだが、手足がすっぽりと白い塊に覆われているのがちょっと怖い。

『それは、お前が魔法少女だからだ』

「……いや、違う」

『魔法少女だからだッ!』

「違うって! こんなん私の好きな魔法少女じゃない! かわいいコスチュームもマスコットもいない! 明らかにメカじゃん! っていうか乗せられてるじゃん! なんらかの乗り物に!」

 私は激怒した。かの魔法少女解釈違い親父をなんとかせねばと。……別に、深夜アニメ系の、シリアス満載魔法少女も嫌いじゃない。だけどこれはメカだ。魔法には思えない。メカ少女と名乗るならまだしもだ、魔法少女を名乗るのはいただけない。

『何を言う。お前が乗っている『アリス・ニグレド』は錬金術の粋を集めて作られた傑作だと言うのに』

 ……ならばなぜもっとファンシーな見た目ではないのか、アリスとかいう名前はかわいらしいがその後ろになんか余計なモノが付いているし。というか見た目と言えば内装ばかりで外装が分からない。この状況から察するに人型ロボット兵器だ間違いない。その時だった。

 白い壁が黄色いライトに照らされ染まる。甲高い、恐らく警報が鳴り響く。

「え、なに、なに!?」

『敵だ。「ワンダーランダ―」が現れた」

 なんか、このメカの名前と違ってダサい。日曜の朝にやってる魔法少女に出て来そうなネーミングだ。

「その、ワンダーランダ―って?」

『言っただろう、敵だと。戦え

 ……え?

『全員に告ぐ! アリス発進準備!』

 お父さんの掛け声と共に、黄色い照明が赤に変わる。

 そして壁が下へと落ちて行く……いや違う、これはエレベーターだ。

 自分が上に上がっているのだ。

「もっとちゃんと説明してよーーーー!!」

 魂からの叫びも届かないようで。

『アリス、安心しろ、その機体はお前が思った通りに動く』

「今『機体』って言った! 機体って!」

 魔法少女という体裁はどこに消えた! 最初からそんなものは無かったと気付いたのは後の話だ。

 太陽の光が当たる場所に出た。ガラスの向こうには海が広がっていた。

『アリス、そこから敵に姿は見えるか?』

「……ねぇそれよりなんでアリスって呼ぶの?」

『コードネームだ。それより敵は』

 機体(業腹)と同じ名前では紛らしいだろうに。

「敵って……ん? あれは……」

 ちょうど水平線の辺りに、何か居る。それは白くて、頭から二本の耳を伸ばし――

「うさ……えっ」

 単眼で、鋭い爪を持ち、白いふわふわの毛を持ちながら背中からは何やら火を吹いている。ジェットエンジンか何かだろうか。

 正直、どうでもよくなっていた。

「ぜっんぜんメルヘンじゃない! なにあの化け物!?」

『ワンダーランダ―の下級兵士型「ラビット」だ。今のお前なら取るに足りない相手だ。マジカルレーザーブレイドで叩き切ってしまえ』

「マジカルって付ければいいと思ってんだろ」

 おっといけない。愛と平和のための魔法少女は言葉づかいも気をつけなきゃ。しかし、このガラス張り……いやモニターなのだろう、かなり目線が高い。こんなものを思った通り動かせと言われても。

「ええい、動け!」

 動いた。物凄い勢いで、ラビットの群れへと突っ込んでいく。

「ストップストップ!? ちょっとお父さんレーザーブレイドってどこに!?」

 止まる。しかし中はパニックだった。目の前に敵が居る。不気味な単眼がこちらの様子を窺っている。

『右腕に搭載されている。腕の直線上に刃が伸びるイメージで振るってみろ』

「ああもう、どうにでもなれぇ!」

 右腕を振るう。一閃。単眼ウサギの首が飛んだ。

「ひっ」

『うむ、素晴らしい威力だ』

 それを皮切りに、周りのウサギ達が散開する。

 こちらを囲むように包囲する。爪を振り上げている。恐らくあれが臨戦態勢なのだ。

「どこ……? マジカルでファンシーな……要素はどこ……?」

『気を引き締めろ! 敵が仕掛けてくるぞ』

 甲高いガラスを引っ掻くような音、それが敵の鳴き声だと分かった時には、もうすでに敵は飛び上がり、その爪でこちらを切り裂かんとしていた。

 それを避ける、そう念じる。それだけで、無事に爪の餌食ならずに済む。

 しかし敵は一匹ではない。これはもう、要素がどうとか言う前に命の危機だ。

 目の前に飛びかかって来た単眼ウサギを袈裟切りにする。そして、そのまま敵の包囲を抜けるために前進する。

「お父さん! 遠距離武器とかないの!?」

 状況に順応しつつある自分が嫌になった。

『左腕だ。マジカルビームランチャーが搭載されている』

「ビームランチャーね! 分かった!」

 マジカルなどという冠を認めるわけにはいかなかった。敵の包囲の一角に左腕を向け、狙いを定める。

 撃て! と念じる。すると放たれた光の弾が、敵の一匹に辺り、爆散させる。辺りに破片が散らばる。もうその光景をなんとも思わず包囲を抜ける。それを防ごうと迫る敵は、そのまま斬り伏せた。敵の爪よりこちらのブレイドのがリーチが長い。完全に包囲の外に出た後は、敵に向けてランチャーを向け光弾を放っていく。次々と爆散するウサギ。そこに、澄香の憧れた魔法少女の世界は無かった。

 これが戦場……。そんな思いに駆られながら、どんどんと戦闘にも適応していく。ステップで敵の攻撃を避け、隙が出来た相手を斬る。空いた左腕で別の敵を撃つ。どんどんと単眼ウサギの数は減っていった。するとウサギ達が後ろに退き始める。

「……撤退、するのかな?」

『恐らくそうだ。初戦闘御苦労。帰投していいぞ』

 敵に背を向け振り返る。自分の後ろにあったのは小さな島だった。その砂浜に四角い穴が空いている。そこから自分は出てきたのだ。言われた通り戻る。その時だった。空が急に陰る。暗くなり、恐怖が襲う。敵が降って来たのではと思い振り返る。

 そこには何もいなかった。あったのは曇り空だった。

「……あれ? さっきまで晴れてたのに」

『奴らワンダーランダ―の空間改変能力だ。奴らはこの力で、この世界を侵略しようとしている。その証拠に、今日の天気予報は一日曇り。決して快晴などではないのだから』

「空間、改変……」

 空が青空に変わるぐらいならかわいいものだが、それが異質な、それこそあの単眼ウサギが蔓延るような世界にでも変えられてしまったら。

 侵略、その言葉が重くのしかかる。自分が、それを防いだという実感はなく。やっと終わったという安堵もない。ただ、漠然とした不安だけが残っていた。

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