五話『はじまりは きょうかい』


――― …


目を開いた時、俺は…。


教会にいた。


「… … … は?」


教会。礼拝堂というのが正しいだろうか。

信者が座る椅子がずらりと並び、少し古ぼけた祭壇がステンドグラスから漏れる光に照らされている。

誰もいない。物音の無い教会の中央に俺は座り込んでいた。


「… これが、俺の、『あるべき場所』?」


始まりの街… 黒い鳥、イシエルとか名乗っていたか。アイツが言うに、ここはムークラウドという街の中らしい。

おそらく、ここがゲームのスタート位置なのだろう。教会…まぁ、アリと言えばアリなんだろうが。草原の真っただ中とか洞窟の中よりはマシか。


「… … …」


しばし俺は周りを見回し、状況を確認する。

すると… 俺の後ろに、人の足音を感じた。慌てて俺はそちらの方を振り向く。


「… ッ!?」


俺は驚いた。

なぜなら、そこにいたのは…。


担任の安田先生だったからだ。


「や、すだ… 先生…!?」


「これ。なにを言っておるかマコト。さてはまた昼寝をしておったな」


安田先生は白と紫の司祭服に身を包み、厳かに歩きながら俺の方へ近づいてくる。…なんだか異様に似合う服装だ。


「少し散歩でもして目を覚ましてきなさい。教会の掃除はそれからでよろしい」


「そうじ、って…。俺が…?」


「お前以外に誰がおるのか。ほれ、行ってきなさい」


「で、でも安田先生…」


「やすだせんせい? さっきから私を見てそう言っておるが、私の名前を忘れたわけではあるまいな」


安田先生は少し怒ったように咳払いをして俺に告げた。


「私はキオ。この教会の司祭。 そしてマコト。お前は此処の『僧侶』だろうが」


… … …。


キオ。確か安田先生の本名…安田昭雄やすだあきおだったな。そこからとったのか。

いや、そんな事はどうでもいい。それより、後半。もっと大切な事を言っていた気がする。俺は確認するように安田せんせ… いや、司祭のキオに尋ねる。


「えと… 俺は、ここの… なんて言いました?」


「此処の、僧侶だ」


「… … …」



そう、りょ。


そして俺は、自分の着ている服に初めて気付く。

キオの着ている服のカラーリングと似た…法衣、というのだろうか。簡素で動きやすい服。首からはこの教会のシンボルのような紋章のエンブレムのついたネックレスをつけていた。


…そうりょ。


「ええええええ…」


「なんだそのがっかりした声は」


驚きより、落胆の方が大きい。


「戦士(せんし)の下だから…まぁ、あいうえお順なら、僧侶(そうりょ)か」


僧侶…。ゲームの初期ジョブとしては…俺ならまず選ばないな。回復とサポート魔法に特化している面はおそらくあるんだろうが…ソロプレイにはまず向かない職業。

こういう職業って中盤からようやく使いものになってくるんであって…序盤のレベル上げとか苦労するんだよなぁ。

俺は安全にレベル上げてから石橋を叩くプレイが好きなのに、それに苦労するなんて事はしたくない派であって…。


「なにをブツブツいっておるマコト」


… どうやら小声で口に出していたらしい。


「いいから外に出て頭を冷やしてきなさい」


「ふえ… はい」


俺は肩を落として落ち込みながら、教会の重いドアを開けて、街中に出る事にした。


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