第九話「放課後のお茶会 2」
今回のお茶会の参加者について、同級生の名前を全然覚えていない俺の為に、メリッサのお茶会に参加すると思われる人物のメモをエルサは事前に渡してくれていた。
本当は一緒に参加して欲しかったのだが、
「ごめんね! 今日は用事があるんだ!」
素気無く断られた。
まぁ、それでも休憩時間にこうしてメモを残してくれるのだからいい友人だ。
いつか恩返しをしなければと思う。
さて、メモは短いながらも必要な情報が詰まっていた。
まずお茶会の主催者であるメリッサ・ラーゼフォード。
王国の四大公爵家が一つ、ラーゼフォード家の次女であるとメモには書かれている。
つまりラーゼフォード家とサザーランド家は同じ爵位というわけだ。
……そもそも自身の家名となっているサザーランドが四大公爵家と呼ばれる存在であることを今更ながら知った。
ただ爵位は同じかもしれないが、あちらは正統な血縁者であり、俺は養子。
対等な立場とは思わない方が良いだろう。
そしてもう一人。
「リコ・クルツと申します。アリスさん、これからも仲良くしてくださると嬉しいですわ」
「こちらこそよろしくお願いします」
クルツ家は伯爵家、リコ・クルツはそこの三女と書かれていた。
メリッサは傲慢な性格という訳はないのだろうが「私の名前は知っていて当然!」という自信があるのだろう。
それ故に、俺は彼女から直接名乗りを受けることはなかった。
そもそも王国民で学校に在籍している有力貴族を把握していない俺みたいな存在が例外だと自分でも思う。
だがリコは優し気な笑みと共に名を教えてくれた。
何となくだが、俺が名前を憶えていないことがリコにはばれていたのではと思ってしまう。
(あれ?)
エメラルド色のゆるやかにウェブした髪、それとリコの顔を見ると、俺は少し面影のある人物を思い出す。
エルサのメモでも三女と書かれていた。
半ば確信に近い、確認のための質問を投げ掛ける。
「リコさんってお姉さんがいたりします?」
「はい、おりますが?」
俺の質問の意図を読めず、キョトンとリコは首を傾げる。
「私、リコさんのお姉さんのエマさんに以前、王城でお世話になったことがあったので」
森国のアニエスが滞在していた屋敷でメイド3人組の最年長がエマ。
なのでエマに王城で世話になったという言葉は少し嘘が混じるが、アニエスの元で仕えていたならあながち間違いではなかろう。
「まあ! エマ姉さんと!」
パッとリコは花のような笑顔を見せる。
その表情からもリコがエマにすごく懐いているのが伺えた。
「姉さんは元気そうでしたか? あまりまめに手紙を出して下さらないので……」
「はい。とても元気そうでしたよ。私もエマさんに色々と教えて頂きました」
世の中案外狭いものだとつくづく思う。
それに全く知らない、ただの同級生という情報しかない状態の時よりも、エマの妹だとわかったリコに対する緊張感は和らいだ。
「さぁ、挨拶はその辺にして、こうして集まったのですから、まずは目的の勉強会を始めましょう」
「メリッサ様、まずはお茶を楽しんでもらってからのほうがよろしいのでは?」
「それもそうね。アリスさん。折角クレアが淹れてくれたお茶が冷めてしまいますわ。
クレア、この焼き菓子もアリスさんのお皿にとってさしあげなさい」
「はいはい、お嬢様」
メリッサの指示を受けたクレアが茶目っ気のある返事をしながら、目の前のお皿に焼き菓子を置いてくれる。
「あ、ありがとうございます」
「これはメリッサ様のお気に入りのお店のものです」
「そ、そうなんですか」
粗相がないように、メリッサの食べ方を観察しながら一口。
メリッサのお気に入りと紹介された焼き菓子は俺の口にもすごく合った。
甘味と中に練りこまれたナッツの香りが程よく混ざり、サクッとした食感の中に心地よい噛み応えを感じられる一品。
行儀よく、という思考は彼方に飛び、夢中で焼き菓子に噛り付く。
とても満足、というのが顔に出ていたようでクレアが何も言わずに追加分をお皿にとってくれた。
そしてこの集まりの本来の目的である勉強会が始まる。
主に教えてくれたのはクレアだ。
教科書の中から大事な部分を重点的に。
あと、授業中の板書をメモしたノートも交えつつ教えてくれる。
俺が板書をメモしたノートと異なり、ポイントが綺麗にまとまっており非常にわかりやすい。
この世界にコピー機がないのが恨ましい。
いつか役に立つかもしれない情報なので、期末テストを受けなくてもいいとはいえ、可能な限りクレアのノート内容、そしてポイントなどをメモしながら自身のノートに書き写していった。
なおこの間、メリッサとリコは俺とクレアの様子を静かに見守ってくれていた。
「今日はこのくらいにしておきましょう」
「はい、クレアさんありがとうございます」
小一時間ほどで本日の勉強会、というよりクレアによる個人家庭教師といった時間は終了した。
何だか授業以外の時に、こうして何かを勉強するのは久々の感覚。
「疲れたー」
気が緩み、バタンと机に身体を投げ出す。
『マスター、見られてますよ』
ヘルプの言葉で、ここがお茶会の場であったことを思い出し、慌てて起き上がる。
ただそんな俺をメリッサは何だか微笑ましいものを見たといった顔。
「す、すみません」
「いいのよ。
「はい、メリッサ様」
「でもアリスさん。
「はい……」
勉強会の後はお茶を飲みながら雑談の会となった。
最初のメリッサの印象は目を付けられると厄介、要注意と少し身構えていたのだが、それは要らぬ心配であったことを俺は知る。
メリッサの印象が世話焼きお姉さんに変わるのにそう時間はかからなかった。
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いつも応援ありがとうございます。
感想に対する返信が最近出来ていませんが、いつも感想を励みに執筆させて頂いております。
改めてお礼申し上げます。
さて、「ゆりてん!」とは別に新たな作品「魔法があふれた日常で」の掲載を始めました。
こちらは「ゆりてん!」と全く違ったテイストの現代ファンタジーものとなっております。
良かったら「ゆりてん!」共々、楽しんで頂けたら幸いです。
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