第八話「放課後のお茶会 1」
レイとの契約(?)で俺は期末テストを合法的にサボる事になり、肩の荷が下りた気がする。
『やけに軽い荷物ですね……』
ヘルプから最近小言が多くなってきたのはきっと気のせいではないだろう。
結局、昼休憩の途中から食堂に行くには時間が中途半端であったため、レイの居室で軽食を食べることにした。
なお、レイのおごり。
どこから軽食が出てきたのか不思議であったが、答えは簡単であった。
レイも俺が持っている収納ボックスと同じアイテムを所持していた。
「貴重なものではあるが、金を積めば手に入らなくはない品だ」
とのこと。
……まぁ、金を積まなければ買えない時点で入手できる人は限られ、魔力が潤沢になければ宝の持ち腐れになる品であるようだが。
ご馳走になり、午後の授業からもうレイの魔術指導になるのかと思っていたが、流石にそうはいかないらしい。
「明日から始める。根回しをしておくので、今日は真面目に授業を受けるように」
「はーい」
こうしてレイとは一旦別れ、午後の授業を真面目に受け、放課後になった。
今、俺は女生徒の一人の後ろを付いて歩いていた。
午前中、メリッサと約束した放課後のお茶会という名目の勉強会に参加するためだ。
今日の約束を即座に、「私テスト受けないので勉強会はなしで☆」と言う勇気は流石にない。
……勇気というか、そんなことをする人間は間違いなく教室で孤立する。
俺だって友達になりたくない人種と思う。
それにメリッサは面倒見がよさそうではあるが、敵に回してはならない人間だと、直感が告げていた。
勉強の必要はなくなったものの、それは告げず、クラスメイトと親睦を深める目的を達成することにしたのが現在というわけだ。
授業を受ける校舎を出て敷地内を歩くこと数分。
(にしても、相変わらず広いよな……)
キョロキョロと見回せば、歩いている途中も様々な施設が建っており、生徒が出入りしているのが確認できた。
一体何の施設なのか少し気になる。
校内には沢山の施設がある。
俺が出入りしているのは授業を受けている校舎、食堂、図書館、あとは護身術の際に着替えるための更衣室くらい。
……これは色々と勿体ないことをしている。
まぁ、振り返ってみれば学校探索をするようなタイミングがなかった。
(アニエス姉さんが帰ってきたら色々と案内してもらおう)
「アリスさん、こちらです」
ようやく目的の建物に着いたようだ。
俺は入ったことのない施設に少し緊張しながら足を踏み入れる。
建屋は煉瓦造りの二階建て。
「この建物は『白薔薇』と呼ばれていまして、上流貴族の者しか使用が許可されていないのですがとても人気でして、中々予約が取れないのですよ」
「そ、そうなのですか」
前を歩く女生徒がそんな説明をしてくれる。
今の会話だけでもお茶会をするためだけの施設が幾つも校内にあることがわかった。
女生徒は何度も来たことがあるのか、慣れた足取りで建物の中を進んでいき、お茶会会場の入り口と思われる扉を女生徒が開くとそのまま支えてくれる。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
ニコニコと微笑む女生徒にお礼を述べ、扉の中へと入る。
後ろを女生徒が扉を閉じ、再び俺の前で先導。
扉をくぐった先は部屋ではなかった。
テラスへの入口である。
ほのかに花の香りが風に乗って運ばれてきた。
(お茶会の為にこんな場所もあるのか……)
俺が想像していたのはどこかの部屋で集まりお茶を飲むまでであったが、お茶会のために用意された施設(庭つき)があるとは思いもしなかった。
テラスから見える庭は白薔薇を中心に、目を楽しませる。
色とりどりの花も控えめでありながら、より白薔薇の見栄えを際立たせるように、庭を飾っていた。
一流の庭師が世話していることが伺える。
建物を見て、施設名称が『白薔薇』とは全く結びつかなかったがようやく得心がいく。
(贅沢……。それともこの世界ではこういう場所は当たり前の場所なのだろうか)
テラスの中央に置かれた白い丸テーブルを囲み、既に二人の女生徒が座っていた。
一人はこのお茶会の主催者であるメリッサ。
俺が入ってきたことに気付き、立ち上がる。
「アリスさん、ようこそおいで下さいました!」
「お招きいただきありがとうございます」
笑顔を張り付けながらも、若干あせる。
そう、お茶会への参加を決めた時の「お茶会」のイメージはちょっと集まってお茶飲みながら、駄弁りながら、そして本来の目的である勉強の教えを請う、そういうものであった。
が、連れてこられたのは思った以上に本格的な「お茶会」。
貴族が行う社交的な意味の「お茶会」だ。
つまりマナーが分からない。
今更気付いても遅いが……。
それでも俺には森都で女王とお茶会をした経験がある、全くの初心者ではない。
女王とのお茶会を思い返してみる。
(うん……まったく参考にならない)
主催者である女王が俺にお茶を振舞ってくれたが、多分あれは本来の作法ではないだろう。
「アリスさん、こちらに」
校舎からここまで先導してくれた女生徒が自然な動作で椅子を引いてくれたので、そこに着席する。
「すごく慣れてますね……」
「ええ。学校に入学する二年ほど前からメリッサ様の元で仕えていましたので」
「クレアは卒業後も
メリッサは得意満面の笑みで紹介、女生徒――クレアもニコリと微笑む。
良い信頼関係で結ばれていることが伺えた。
ついでに女生徒の名前がクレアであることを今更ながら知る。
こうしてお茶会が始まった。
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