第五十七話「殲滅戦」

 目の前に姿を見せた魔物。

 レベルから推測するに相当強い魔物であることがわかる。

 それよりも俺は、魔物が人の言葉をしゃべった、という点に注目してしまうが。

 魔物の生態はよく知らない。

 おそらく人語をしゃべる魔物は非常に稀であると思われる。

 だが、好都合かもしれない。

 人語をしゃべったということは、ある程度意思疎通が取れるということになるのだから。


「人語をしゃべれるのなら話は早い。ここから先は通せない。実力差はわかるだろう? ここは退いてくれないか? 森へ戻るのであれば追いはしない」

「退ク?」


 俺の提案にテネコカトリスは首を横に傾げ、続いてケタケタと不気味な笑い声をあげる。


「クケケケッ! 退ク! コノ俺サマニ退ク! ココマデキテ、ゴチソウヲ前ニ何モ食ワズニ? タシカニアンタハ強ソウダ。芳醇ナ魔力ノ香リガスル」


 顔の横に付いた双眸が俺を見る。

 それはどう捉えても友好的ではない。

 かといって敵対的なものでもない。

 それは――


「ウマソウダ。ウマソウダ……!」


 ただ俺を食い物として認識していた。

 こいつとは平和的な解決は不可能と本能が理解する。

 目の前の魔物は俺をただの食糧としか認識していない。

 姿が消える。

 闇夜に紛れテネコカトリスが襲い来る。

 が、見えている。

 一閃。


「アッ?」


 テネコカトリスはそれだけを言い残し絶命した。


「残念だ」


 刀を払う。

 同時にテネコカトリスの死体ともう一体の斬り捨てた魔物は炎に包まれる。

 魔力が豊富なこの地で、しかも女王の結界がない今の状況では死体を放置しているとすぐにアンデッド化してしまうとの注意を受けていた。

 脅威が増えるリスクを排除するのは最優先。

 魔物だったものは一瞬のうちに灰となる。

 倒した魔物から魔晶石や素材を採れればいいのだが、今は余裕がない。


(あいつは俺のことを食糧として見ていたけど、俺たちも魔物を脅威でなければ金になるものとみているわけだよな……)


 元よりわかり合うことは無理であったのかもしれない。

 魔物の立場から見てみれば、今の森都は結界というものが立ち消え、魔力が満ちた土地に脅威になりえない餌が沢山いる絶好の狩場というわけだ。

 周囲に探知魔術をはしらせる。

 もう、テネコカトリスと同様に密かにここまで侵入している魔物はいないと思う。

 というか俺を無視してラフィたちのいる場所を襲われている可能性があったと考えるとゾッとする。

 運がよかった。


『そうではないと思いますよ』

「というと?」


 ヘルプに問い返す。


『元より魔物は世界樹の魔力に吸い寄せられるように集まってきています。

 ちなみにそれと同じくらい、マスターは先程の魔物の言葉を借りるのであれば魔力の芳醇な香りを放っています』

「……つまり?」

『近くの魔物はマスターを目指しているかと』

「あぁ……なるほど」


 ヘルプの言葉通り、群れの一角を焼き払ったにもかかわらず、魔物の戦意が衰えた様子は見えない。

 魔術を放ったことにより、俺の位置が知られることになったためか、魔物の進路は俺を目指している。

 地上から。

 そして空中からも。


「俺を目標にしてるなら都合がいい」


 わざわざ街中で戦う必要もないわけだ。

 だったら死角の多くなる街中で戦うのは悪手。

 ならば選択肢は一つ。


「突貫!」

 

 足場としていた屋根を電光石火を発動し、蹴る。

 紫電を纏い、一直線に敵の群れへ。

 近付くにつれ焼き払った群れはほんの一握りであったことを知る。

 犇めくように多種多様な魔物が居た。

 豆粒ように見えていた魔物は一瞬のうちに大きくなり、俺よりも一回りも二回りも大きな種であったことがわかった。

 だが、大きさなどは問題にならない。

 魔物が俺の接近に近づくより早く。

 技名などない、魔物の中心へと飛び蹴りをかました。

 ドゴンッと。

 地鳴りのような音が辺りを震わす。

 着地地点を中心をクレータが出来上がった。

 複数の魔物を粉砕。

 血髄を地面にまき散らす。

 

「AAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 そんな俺に対して周囲の魔物は恐れるどころか戦意高く、興奮した様子で襲い来る。

 真っ先に襲い掛かってきたでかい猿のような敵を斬る。

 同時に火の刃が顕現。

 周囲を巻き込み焼き払い、灰へと還す。

 ヘルプの言う通り、森都を一直線に目指していた魔物も俺が現れたことにより一斉に方向転換。

 俺へと向かってくる。


「……これは世界樹の加護による影響なのか?」

『それはわからないです』


 これでは加護というより呪いだ。

 普通の人であったら魔物に圧殺されてしまう。


「まぁ、何にしても好都合だ!」


 これでも魔物が森都を目指すようであれば、最初の予定通り、森都外縁部で戦うしかなかった。

 だが、思惑通り魔物は俺に次々と襲い来る。

 

『レイ! どうやら俺に魔物が惹かれてるようだ! このまま魔物を外にひきつけながら戦う!』


 敵を斬り、焼き払いながら念話を発するがレイから返答がこない。

 一瞬嫌な予感がよぎるが、それはヘルプの言葉によって否定される。


『マスターに渡された魔道具は、森都内に設置された魔道具とも連動していますので、森都から離れると使えないかと』

「そうなのか」


 だったら森都を離れる前に一言いれておけば良かったと後悔するが、知らなかったのだから仕方がない。

 レイの方は俺と会話できなくなって魔物とやられたと心配するだろうか。

 魔物から魔術による攻撃が迫る。

 それを障壁を張ることなく、刀を振る。

 刀から発生した火は敵の魔術ごと焼き払い、それだけでは勢い衰えず。

 攻撃してきた敵ごと焼き払う。

 その余波で周囲の敵も灰となる。


『……きっと森都の索敵に優れた方がマスターの位置は把握していると思われますので、大丈夫かと思われます』

「それもそうか」

『これだけ派手に暴れていれば捕捉には困らないでしょう』

「派手にするつもりはないんだけどな……」


 空から襲い来る敵を頭上へと刀を払い、延長線上に出現した火の刃で攻撃もろとも焼き払いながらヘルプの言葉に納得する。


「レベルが上がったわけでもないのに絶好調だ」


 森都から離れたら世界樹の加護は弱まり、多少魔術の威力は減衰するかもしれないとも思ったが杞憂であった。

 魔術に衰えは見えず。

 体力も万全。

 いつものように魔術を使い過ぎた反動で倒れる兆候もなし。

 かつての戦いのように。

 聖魔術でアンデッドを即死させていたのと変わらない効率で魔物を薙ぎ払う。

 

「こいつらには悪いが向かってくるなら殲滅するまでだ」


 焼き払っても隙間を埋めるように次々と。

 魔物は未だ尽きない

 

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