第十五話「断定」

 お昼ご飯を食べ終えると、復習がてら今度はポーションを最初から一人で造ってみることになった。

 なお、エレナは俺が店番ついでに立っててくれたら大丈夫だろうとのことで裏庭で薬草を採取してる。


「月光草に、ホーンウルフの角に……」


 エレナから渡された材料メモに目をやりながら、目的の材料が入っている棚を探しては、必要な分だけ取り出し籠へと置いていくということを繰り返す。


(人の家じゃなければジャンプして取るんだけど……)


 背が届かない棚のものを取る際は木箱を移動させながら材料を取り出すため、意外に時間がかかってしまうのが難点だ。

 因みにポーションに使う素材は決まっているものではなく、人それぞれなのだとか。

 今教えてもらっているレシピはエレナ印の秘伝レシピということになる。

 エレナのモットーは手に入りやすり素材でより良いものを。

 庭で簡単に栽培できる薬草をメインに、魔物の素材も比較的入手しやすいものを使っているのが、このレシピと説明を受けた。

 当然、素材によって効果は大きく異なるが、エレナ曰く、


「王国で手に入るものよりも効果が高いのは保証する」


 とのことだ。

 常に穏やかに微笑んでいるエレナではあるが、王国で造られているポーションは「粗悪品」とバッサリ。

 以前、ラフィから王国で手に入る一番上の等級ポーションを手土産に持って帰ってもらい、中身を調べたことがあったとか。


「水で薄めても、うちのポーションの方が効果が高いわ」


 王国のポーションはよっぽど駄目らしい。


「ごめんください」


 背後から声がしたので振り向くと、今日初めてのお客さんが店の扉を開き、中へと入ってきていた。

 俺は慌てて木箱から降り、籠を横に置く。


「いらっしゃいませ」


 ペコリとお辞儀をしながら挨拶をする。


「エレナ。新しい子を雇ったのかい?」


 お客さんは、ちょうど良いタイミングで裏庭から戻ってきていたエレナへと声を掛ける。


「うちに、そんな余裕はないし必要もないわよ。で、レレナどうしたの?」

「下の子が熱を出しちゃってね」

「あら、それは大変」


 エレナは言いながら商品棚からひょいひょいっと薬草を取り出し、調合スペースで慣れた手つきで粉末状にしていく。


「これを食後に飲ませてあげて」

「いつも悪いわね。代わりはこれでいいかしら?」


 エレナから薬を受け取ると、レレナは手に提げていた袋から品を机に並べていく。


「今朝採れた野菜と、搾りたての牛の乳よ」

「あら、なんだか豪勢ね。助かるわ」

「エレナにはいつもお世話になってるからね」


 王都とは違い、この街では貨幣ではなく物々交換での売買も一般的に行われているようだ。

 お互い納得のいく品だったようで、レレナも満足気に店を後にし、エレナもにこにこと見送っていた。

 彼女が今日唯一のお客さんであった。



 ◇



 日が傾き始めると、エレナは店を閉め、今日の営業は終了。


「アリスちゃん、今日はお手伝いありがとうね」


 エレナに労われるが、俺ははたと気づく。


(手伝いのはずが、俺ばかり世話になってる……!)


 居候し、本来は秘伝であるポーションの造り方まで教わり、お世話になってばかり。

 さすがにこれは申し訳ない。

 そこで俺は夕食を作らせて欲しいと申し出ることにした。


「なら、お願いしちゃおうかしら」


 夕食を任せてもらえることになった。

 なお、ラフィ&ミリィは今日は森で野宿らしい。


「珍しい魔物が出るって噂を聞くとすぐに二人して狩に行くのよ……」


 はぁと溜息を付きながら愚痴をこぼす。

 つまり愚痴をこぼすほど姉妹の日常茶飯事の行動というわけか。

 その話を聞くと、なおさらついて行けばよかったとちょっぴり後悔。

 さて、夕食を作るために台所を借りたはいいが、エレナはやはり、見た目小さい俺に料理を任せるのは不安だったのか、野菜を切っていると時折覗きに来ていた。

 トントンと迷いなく食材を切っていると、問題ないと確信したようで、ニコニコしながら料理を楽しみに食卓の席に着き、青の毛繕いをして時間を潰していた。

 今回俺がつくる品は、ちょうど先程沢山の野菜と牛乳を頂いたのでシチューにした。

 収納ボックスからこっそり小麦やら香辛料を取り出し、使いながら料理していく。

 寮でも頻繁に作っている品だ。

 程なくして野菜も煮え、シチューが完成。

 皿へとよそい、食卓へと運んだ。


「わぁ、おいしそうね」

「お口にあえばいいですが……」


 料理上手のエレナのお眼鏡に適えばいいが。

 一応、青の前にも皿を置き、今日はエレナの正面の席に腰を下ろす。


「じゃあいただきましょうか」


 木製のスプーンを使い、まずは野菜から口に運ぶ。


(うん、美味しい)


 納得のいく出来であった。

 素材の野菜が美味しいからか、寮でつくっていた時よりも格段に美味しく感じる。


「すごく美味しいわ」


 エレナも目を丸くして、シチューを評する。

 それを聞いて俺もホッと胸を撫でおろす。


「エレナさんにそう言ってもらえると、自信になります」

「ポーション造りも申し分なし。料理も上手。

 うーん、もううちの子になっちゃえばいいのに。

 どうかしら、?」

「あはは……」


 と、エレナの褒め言葉を笑ってい受け流そうとしたが。


(今、エレナさん何て言った?)


 聞き間違いかと思い、正面のエレナを見るが、いつも通りニコニコと微笑みながらこちらをみている。


「ねえ、ナオキくん?」


 聞き間違えではなさそうだ。


「え、エレナさん。私の名前はアリスですよ……?」


 若干、顔が引き攣るのを自覚しながらもエレナの言葉を否定する。

 だが、俺の言葉にエレナはさらに笑みを深めるのであった。

 

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