第四十二話「味方」
なるべく大蛇が隊商の方へと注意がいかないように、魔術で牽制し、注意をこちらへとひきつけながら、ヘルプの提案に関して思考する。
《獅子炎帝イフリート召喚》、今では学校のモニュメントと化している赤との戦闘に使用したスキル。
そして、それ以来使用したことがないスキルでもある。
このスキルのおかげで、全く攻撃が通用しなかった赤に勝利した。
確かに、大蛇に対しても有効かもしれない。
しかし、問題がある。
以前は、召喚に成功したものの、不完全な召喚で終わった。
その原因は確か、
「このスキルを使用するのに、確か依代がいるとか言ってなかったけ?」
そう、依代を準備していなかったためイフリートは俺自身を依代に降臨したとか。
……残念なのか幸運なのか、その時の記憶は俺に一切ない。
俺の疑問にヘルプが答える。
『依代であれば問題ありません』
「そうなの? ……また俺に降ろすってこと?」
最悪、前回と同じように俺に降ろせばいいとは思っているが、出来るならば正規の召喚を行いたいのだが。
『違います。現在のマスターであれば依代に足りうるものを所持しています』
「そんなの……」
持っていたっけ? と言いかけ気付く。
「そうか、華月か」
『その通りです』
手に握る刀『華月』を見る。
以前、王都迷宮で精霊状態であった青を剣に宿したことがあった。
ようはそれと同じで、イフリートを華月に降ろせばいいとヘルプは言っているのだ。
器として足りるのか、という疑問は考える必要はなかろう。
これ以上の依代になるものは、この世界を探しても中々見つからないと思えた。
となると、残る疑問はあと一つだけだ。
「魔力は足りるの?」
依代よりも、こちらのほうが問題かもしれない。
まだ魔力に十分余裕はあるが、以前の召喚時はありったけの魔力を搾り取られた感覚だけは覚えている。
あれから俺の魔力容量は増えているとはいえ、実際にはどれほどの魔力が召喚に必要なのかが不明だ。
ゲームのように消費MPといった記載もなければ、俺の残り魔力を数値で教えてくれる便利機能があるわけでもない。
魔力だけ消費して、召喚するのに十分な魔力が足りずに不発。
そのような事態は避けたい。
魔力切れで動けない俺を、目の前の大蛇が俺を無視してくれると、都合のよい考えはとてもできないしな。
『今のマスターであれば、ギリギリ足りるかと』
「それでもギリギリなんだ……」
やや不安な答えではあるが、ギリギリとはいえ、足りるのであれば他に有効な手段もない今、選択肢はないか。
大蛇が突進してくるタイミングで、地を大きく蹴り上げ、尻尾の追撃が届かない位置まで、空中へと身を躍らせる。
規格外の大きさで、生物として分類していいのかはわからないが、物理法則を無視した動きはしてこない。
突進した後は大きく隙ができ、再度こちらを狙ってくるまでに時間ができる。
決断したなら、即行動。
「出でよイフリート!」
とりあえず、叫んでみた、
……。
…………。
「あれ?」
何も起きない。
魔力が払われた感覚もない。
いや、よく考えたら、以前召喚した後、俺は意識を失っていたため、このスキルがどのようなものなのか具体的にイメージできなかった。
つまり、詠唱無しでは発動不可能。
「アリス、前! 前!」
「あっ、やば!」
青の声で慌てて回避行動。
大蛇が長い胴を伸ばし、空中へと追撃してきたのだ。
空中に跳躍する白い大蛇の姿は、
、
「……やっぱり、青達の同類にしか見えない」
「僕達はあんなみっともなく地面を這わないよ」
「いや、俺の住んでた地域の竜って翼がない姿もメジャーだったから」
俺の言葉に青は不満気。
そんな言い訳をしながら再度地面に着地。
「しかし、これはまずいな」
召喚魔術のイメージができないため、詠唱が必須となる。
そして問題なのは、表示された《獅子炎帝イフリート召喚》の詠唱詞が非常に長い。
「これ、途中で区切りながら詠唱しても発動するの?」
『駄目かと』
さすがにそこまでズルは許されないようだ。
「とりあえず――」
距離を取ったことにより、すかさず溶解液が飛んでくるのを魔術で防ぐ。
動きながら詠唱をしようにも、合間で別のアクションを起こさずにいられない。
並列で魔術処理ができるなら、可能なのかもしれないが。
「こいつの動きを封じないと、まともに詠唱なんてできない。
ヘルプ、詠唱している間、こいつの攻撃を魔術で防げる?」
『私が発動する魔術はあくまで補助。
そして、魔力供給源はマスターのものになります。
私はマスターほど魔力効率がよくありません。
加えて、召喚に必要な魔力は先程も述べました通りギリギリです。
魔術行使は避けた方がいいかと』
「まじか」
連続で溶解液が俺を狙い吐き出される。
咄嗟に魔術を発動しそうになるが、自制し、地面を全力で蹴り、横方向へと跳ぶ。
掠めるような距離、だがギリギリで避けた。
「青、あいつの注意をひいててくれたりは?」
「さすがに無理。
それができたら、狙われている君の頭から早々に離脱してるよ。
今の僕では、狙われたら最期さ」
「そうですか」
いつまで頭に居るんだろうと思っていたら、離脱する機を逃してしまっただけのようだ。
だが、そうなるといよいよ厳しくなってきた。
回避していれば勝機が見いだせるわけでもない。
加えて、状況をひっくり返すための一手のため、魔力はこれ以上消費できないとの制限付き。
味方がいれば。
思わずにはいられなかった。
そんな時であった。
再び溶解液が広範囲に吐き出される。
どこに向かい避けるか一瞬の思考。
足に力をこめる、それよりも早く。
「我らを守れ《
澄んだ声がこだました。
白い氷の花弁が展開され、俺を狙っていた溶解液の攻撃を防ぐ。
誰が、疑問に対する答えは、姿を見ずとも分かった。
声の方を振り向くと、よく知った姿が目に入る。
杖を掲げた少女。
ラフィ、心強い仲間だ。
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