第二十一話「成長」
「無駄な抵抗も何も、どうして俺は突然服を剥ぎ取られてるんだ!?」
迫り来るローラを前に俺は抗議の声をあげる。
部屋に入るなり服を剥ぎ取られれるような事態が起こり得るだろうか?
俺の経験では今までこのような事態に遭遇したことはないし、直樹であった時もそのような経験はしていないはずだ。
その疑問に少しローラは考え口を開く。
「健康診断です?」
「いや、絶対嘘でしょう」
健康診断だとしても有無を言わさず服を脱がす医者は異世界といえどもいないはずだ。
そもそもローラが医者であるという話は聞いたことがない。
「ちょっとした冗談ですよ、勇者様」
微笑みながらローラは答える。
その一言と共に一歩ローラは足を退き、俺に掛けていた圧を解いた。
ほっと一息つく。
俺の正体を知っている数少ない一人であるローラ。
以前からただのメイドにしてはレベルが高く実力のある存在と俺は認識していたが、警戒を全くしていない隙を突かれたとはいえ、こうも見事に抵抗もできぬまま服を剥ぎ取られるとは思ってもみなかった。
(本当に何者なんだ)
目の前に立つローラを見上げながら、俺は何度目かとなる疑問を抱いた。
尋ねても、いつもと同じ「秘密です」の一言で終わらせるのだろうと予想し俺は問いただすことを諦める。
「それにしても――」
左腕に俺から剥ぎ取った服を抱えながらも右手を口にあて、ローラが言葉を続ける。
「暫く見ない間に随分と仕草も女性らしくなりましたね」
「それは喜んでいいのか?」
ローラの言葉に俺は困惑の表情で答える。
女性らしいと言われて喜ぶべきなのだろうか?
「もちろんです。せっかくの愛らしいお姿なのですから!」
何を当たり前のことを!と言わんばかりにローラは興奮した様子で言う。
頬に赤みがさし、上気した顔。
熱い視線を俺に送ってくる。
美少女メイドでもあるローラに近距離で見つめられ、俺は思わず目をそらしてしまう。
今更ながらローラはアニエス以上に俺を着せ替え人形にして楽しんでいた一人であったことを思い出す。
その証拠に俺の着ている服の殆どはローラによって選ばれたものだ。
着せ替え人形が嫌ならば本気で抵抗すればいいだけの話なのだが、俺が眠っている間も世話をし、目覚めた後も色々と世話になった恩がある。
要は俺はローラに頭が上がらないのであった。
決して俺自身が積極的にローラに荷担し可愛らしい服を身に纏い喜んでいるわけではないと付け加えておく。
「で、本当のところ何で服を脱がされたの?」
改めて問うと今度はまともな答えが返ってきた。
「そろそろ季節も変わりますし、新しい服が必要かと思いまして」
俺から少し離れ、部屋の中央にある机にローラは近づくと畳終えた服を置く。
ポケットから巻き尺を取り出す。
「サイズが変わってないかの確認を」
なんだそういうことか、とほっと胸を撫で下ろす。
俺としても少し汗ばむ季節となってきており、少し薄手の服が欲しいと思っていたのでローラの申し出はありがたい。
などと考えていたが、ふと冷静になり考える。
「部屋に入るなり服を脱がす必要あったの?」
事情を話して、採寸するために服を脱ぐよう、俺に促せばいいのではと疑問に思う。
ローラは首を傾げながら俺の疑問に答える。
「怯えるアリス様、大変可愛らしかったですよ」
にっこりと。
(ローラさんってこんなキャラだったのか)
脱力した。
この人にはきっと何をやっても敵わないと、諦めが俺の中で生まれた。
巻き尺を構えるローラに身を任せることにした。
「それでは失礼します」
ローラが俺の身体に触れ、巻き尺を身体の部位に這わせていく。
少し冷たい巻き尺の感触が肌より伝わってくると、軽く身震いをする。
そういえば、と俺は口を開く。
「ローラさんが準備してくれた服の代金、今度会った時に払わなきゃと思ってたんだけど」
胸部を測るために、膝を折り曲げローラが目の前に来ていた。
俺も腕を広げ採寸の邪魔にならぬようしていた。
「アリス様、代金は必要ありません」
「でも、こんなにお世話になって服まで貰って」
「いいえ、世話になったのは私たちのほうです」
胸囲を測り終え、ローラは巻き尺を仕舞いながら答える。
いいですか、と前置きした上で。
「そもそも王国の人々が今もこうして、以前と変わらぬ生活を営んでいられるのは、偏に勇者様のお陰です。
感謝しても感謝しきれないほどの恩を私達はすでに受け取っているのです。
本当であればそれに見合う報奨を渡すべきなのですが……」
俺と勇者は別人。
災厄で多くの被害を受けた王国にとって勇者という英雄は必要不可欠。
そのために勇者の影武者を用意し、今も俺の知らぬところで影武者は勇者として活動をしているはずだ。
勇者が受けとる報酬を今の姿の俺が受けとるのは色々とややこしいことになることは想像に難くない。
(そもそも領地とか貰っても困るしな)
アレクから王都に帰れば領地に金もたんまりもらえるだろうな!といった話を聞かされた。
予めガエルには「そういったものはいらない」と再三言っていたので、呪いにより少女の姿になっていなくとも領主ナオキ誕生とはならなかったはずであるが。
「せめて生活の手助けくらいは私たちにさせてください。
それに、私自身アリス様の服を考えることは最近の楽しみですので!」
王国としての思いは本当であろうが、どうやら後半のローラの趣味といった面も強そうだ。
「うん、ありがとう。お世話になるよ」
苦笑しながらも俺は厚意をありがたく受けとることにした。
服くらいならいいかと。
見繕ってもらう服も高価で派手なものというわけでなく、本当にローラが俺に似合うものを厳選してくれていてることを知っている。
サイズも俺の身体にぴったりだ。
「今貰ってる服もサイズがぴったしだけど、いつ測ったの?」
「アリス様が呪いで眠り続けていた時に、勝手ながら測らせていただきました」
さらっとローラが告げる。
「そ、そう」
「その時は全身の服を剥ぎ取り、くまなく採寸させていただきました。
本当に美しい身体で……、同じ女性でありながら惚れ惚れと」
「いや、俺は元男だから」
うっとりと頬を少し赤く染めながら言うローラを白い目で見つめる。
俺は恥ずかしがるべきなのか、だんだんとわからなくなってきた。
「そういえば、身長は以前とどう?」
採寸する際にローラは俺の身長も測っていた。
呪いを受けた俺の身体は果たして成長するのか。
一生この姿ということもありえなくはない。
見た目は成長期の年頃であり、背が変化しているようであれば、年相応に成長していくことになる。
それを確認するために俺はローラに問う。
問いの意味を理解し、ローラは先程までの浮わついた雰囲気が変わる。
真剣な表情で事実を述べる。
「残念ながら、身長に変化は見られません」
「そうか……」
ありえる話とは予想していたが、一生このままの姿である可能性が高まった。
俺の見た目の年齢であれば、数ヵ月もあれば普通身長に変化が見られるはず。
つまり呪いにより、この姿は固定されてしまったと考えるのが自然だろう。
だがローラの言葉はここで終わりでなかった。
「ですが胸囲が少し成長されてました!
女の子として成長されてます、アリス様よかったですね!」
ローラは嬉しそうに告げる。
その言葉に、俺は複雑な表情を浮かべるのであった。
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