第二十五話「ラフィの考え」
「キモチワルイ」
アレクの想像した通り、ラフィはひどい有様であった。
部屋をノックし出迎えた姿は、また初めて見るラフィの姿であった。
自慢の青い髪はあらぬ方向に跳ね、服もしわだらけ。
低い背を常にしゅんと伸ばしているが、今日は背中を丸め、青い顔で開けた扉にもたれかかっている。
「だ、大丈夫か」
アレクは昨日の文句を言おうと思っていたが出鼻をくじかれた。
「足がふわふわする。寒い」
完全に二日酔いである。
アレクは額に手をあて溜息をつく。
「水貰ってくるから、お前は身だしなみでも整えてろ」
「うぃ……」
アレクは女将さんにお願いし水を貰い、再びラフィの部屋を訪れる。
先程と変らぬ姿で扉にもたれかかったままだった。
貰ってきた水を渡す。
ラフィは水を受け取ると、コクコクと飲む。
少し落ち着いたのか、ラフィは一つ息をつく。
「頭痛い」
「昨日あれだけ飲んでたらな……」
「憶えてない」
「だろうな。昨日のことはどこまで憶えてる?」
「お肉の料理美味しかった。……、後は憶えてない」
かなり序盤から記憶がない。
「ということは、お前さんが啖呵を切って約束した内容も当然憶えてないよな……」
「約束?」
アレクはラフィに昨日、ゲルト達と約束した内容を聞かせる。
……ラフィの様子も包み隠さず、それはもう親切に、事細かく教えてやった。
ラフィは黙って聞いていた。
「……憶えてない。でもわかった。
あとアレク、ありがとう」
「おう」
醜態を晒していたのはやはり恥ずかしいのか、ほんのりとラフィの顔は赤くなっていた。
「私が言い出したことだから、責任はもつ。集合、何時?」
「九時だ。あと一時間くらいか」
「わかった。準備する」
「……大丈夫か?」
「今度、二日酔いを治す魔術を開発する」
「いや、飲みすぎないように気をつけろよ。
そういえば昨日、お前が酔っぱらってて教えてくれなかったが、俺冒険者ギルドに登録してないけど本当に大丈夫なのか?」
今から行く王都迷宮は冒険者ギルドが管理しており、王都迷宮の入場はAランクチーム以上と聞いている。
アレクは迷宮に潜る準備は一応したが、冒険者ギルドに登録をしていない。
そのため入場前に、門前払いになる可能性が残っていた。
酔っぱらったラフィは「らいじょうぶらいじょうぶ」としか答えてくれなかったわけだが。
(まぁ、入れなかったら入れなかったで、俺はそれで構わないが)
その答えをラフィが少し考える。
多分、酔っぱらった時に何を考えていたかは分からないが頭のいいラフィだ。
すぐに当時何を考えていたのか理解したようだ。
「大丈夫。ちょっと待ってて」
よろよろとラフィは自分の荷物を入れたカバンに向かい、紙と羽根ペンを取り出す。
机に座り、紙に何かをしたためた。
書き終わり、アレクのもとへと戻ってくる。
「悪いけど、私が準備をしてる間にこれを冒険者ギルドに届けてくれる?」
アレクは紙に軽く目を通し、ラフィの意図を理解した。
(なるほどな。俺達はあくまで護衛対象として潜るわけか)
紙の内容は王都迷宮の調査護衛依頼。
依頼人には、普段ラフィが使うのを嫌がるユグドラシル魔術学園教授という地位と印、最後にラフィの名が記されていた。
長耳族の中でも最年少で魔術の総本山といわれている学校の教授格まで上り詰めたのが目の前にいるラフィという存在だ。
そんな存在のラフィだが、立って動いての動作を何度か行ったせいか、再び気分が悪くなったみたいだ。
顔を青くして震えている。
アレクはそのことには何も言わず。
「わかった。届けておくよ」
一言だけ告げ、扉を閉めた。
扉の奥からはえずいている苦し気なラフィの声が漏れ聞こえてきた。
(ナオキが知ったらこれは幻滅するな……。いろんな意味で)
◇
アレクはゲルト達が宿泊していた宿を訪ね、ちょうど一階のラウンジでくつろいでいたライムントを見つけた。
ちょうどよかったので、ライムントにラフィとアレクが同行する方法を話し、そのまま冒険者ギルドに一緒に向かうことにした。
向かう途中、アレクはライムントに一つ尋ねた。
「俺とラフィがただのほら吹きで、酔っ払いの戯言とは疑わなかったのか?」
「こう見えてもAランク冒険者ですからね。大体の実力は見当がつきますよ。
……最近は予想外のこともあり、少々自信を失っていますが。
ラフィさんでしたか、無詠唱であなたに魔術を使うのには驚きましたが、まさかここまでの方だったとは」
苦笑しながらもライムントは答えてくれた。
冒険者ギルドに入るとアレクは、ギルドへの依頼手続きを行う。
正式に発注され、依頼ボードに貼られたアレク達の依頼をライムントに受注してもらった。
依頼人が冒険者ギルドに所属する個人やチームを指名し、依頼を行うことは禁止されている。
許可してしまうと、一部の冒険者にばかり依頼が集中してしまい、後続の冒険者育成の妨げとなってしまうからだ。
アレク達の依頼は報酬なしではあるが、ラフィが使ったユグドラシル魔術学園教授の名の効果でポイントは破格のものとなっていた。
ポイントは冒険者ギルドが決定するものなので、アレクは一切関与することができない。
危険を伴い、報酬なしの依頼を受ける物好きはそうそういないだろうが、ポイントだけが欲しいという者がいないとも限らないので、こうしてライムントに同行してもらい、すぐさま依頼を受注してもらったわけだ。
一連の手続きを終え、集合場所にしていた王都迷宮入口に着くころには集合時間にちょうどいい時間となっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます