第二十四話「準備」
窓から漏れる光でアレクは目を覚ました。
ベッドから起き上がり窓を開け、まだ少し肌寒い空気を部屋に入れる。
夜の喧噪が嘘のように、朝の早い時間、街は静寂に満ちていた。
昨夜の出来事を思い出す。
結局あの後、ラフィの提案により今日から王都迷宮に潜ることとなった。
集合時間は九の時、鐘が二度鳴る時間と約束し、簡単に打ち合わせをすると、あとはひたすら飲み会となった。
……アレクは朝早いことがわかっていたので抑えたが、ラフィとゲルトの二人はひどかった。
勇者ナオキの一行と言うことを知り、話題には事欠かず、ラフィも嬉しそうにナオキがいかに凄いのか自分のことのように語る。
散々飲み、最後はアレクがラフィを部屋に運び、ゲルトも仲間に連れられて帰っていった。
(あいつ今日起きてこれるのか?)
幸せそうに酔いつぶれてたラフィだが、起きたら間違いなく二日酔いに悩まされるだろう。
惨状を想像し溜息をつく。
荷物から相棒の弓を取り出し、なれた手つきで弦を張り替える。
二度、三度弦を弾き、問題ないことを確認。
(あとは矢か)
矢筒は荷物になるので普段持ち歩いていない。
一人旅の時は短剣を腰に差し、なるべく安全な道を行く。
それにアレクは探知能力には自信があり魔物と遭遇する前に回避し、極力戦闘をしないのが基本方針である。
集団で行動する以上、アレクも役割をこなす必要がある。
さらに今回は、ナオキという圧倒的な戦力もいない中迷宮に潜る。
アレクにとって実は、ナオキ率いる集団以外と共に行動するのは初めてであった。
ゲルト、ライムント、ミハエルが前衛。
クロエ、ラフィ、アレクが後衛。
しかし、メンバーはAランクという冒険者の中では最高ランクもちではあるが、ナオキやその仲間を見慣れてしまったアレクには頼りなく見えた。
信頼できる前衛がいないのは不安である。
(ナオキと比較したら酷か。俺は俺の役割をやるだけか。
とりあえず朝食を食べたら、矢を買いに行くことにしよう)
自作してもいいが、あいにく時間と材料がない。
袋の中の貨幣を確認し、アレクは着替えると一階に降りる。
朝の厨房は女将さんが一人で仕切っていた。
冷たい水と軽い朝食をとると、アレクは外にでる。
◇
起床時は閑散としていたが、すでに街は活動を始めていた。
一般的なお店の開店時間は、アレク達が今日集合時間に設定した九の時。
しかし、冒険者街の朝は早い。
宿屋の通りから、武器や雑貨を扱う店が軒を連ねる通りに向かう。
その間にも冒険者らしき人々が足早に歩いていく姿が見られる。
アレクが目的の通りに着くと、朝早い時間にもかかわらず活気に満ちていた。
迷宮に潜るチームだろう、まだ狩ってもない魔物の素材の買取価格に夢を膨らませる者。
武器屋の前で調整してもらった武器の調子を確かめる者。
とにかく人が溢れていた。
国の大都市と呼ばれる場所には似たように冒険者街と呼ばれる地区はあるが、ここまで活気に充ちた街をアレクは見たことがない。
騎士の不足しているアルベール王国は冒険者への依頼が増えていた。
そこに王都迷宮という存在。
冒険者にとっては活動に事を欠くことがない。
夢のような楽園となり、かつてない活気が街に溢れかえっているわけだ。
アレクは目的のものを買うために店を見て回る。
先ずは矢、そしてポーションと食材。
武器屋はそこかしらにあり、目についた店に入っていく。
目的のものをすぐに見つけると、一本手に持ち重さ、バランスを確かめる。
問題ないことを確かめると一束と矢筒を購入した。
続いてポーション。
今回のメンバーに
ナオキと共に戦っていた時はあまりお世話になることがなかった品であるが、不測の事態に備えて常備しておくことに越したことはない。
薬屋に入る。
同じようにポーションを買い漁っている冒険者が目に入る。
続いて値段。
目を剥いた。
「たけぇ……」
ポーションには等級があり、上の等級ほど効果が高い。
しかし、一番下の等級ポーションでもアレクの知っている値段の三倍だ。
アレクの呟きに店屋の主人が答えてくれる。
「すまんね。需要が一気に増えて供給が追い付いてないんだ。
今はその値段でも、この辺りじゃまだ良心的な価格だよ」
少し悩んだが、結局一番上の等級のポーションを十個購入した。
十個でお値段なんと、金貨三十枚。
アレクが購入の意思を伝えると店主は驚いていた。
(あとでラフィに半分は出してもらう……)
痛い出費だが、ケチっていても仕方がない。
……ナオキとの活躍でアレクもそこそこ財は蓄えているのだ。
最後に食材。
基本は自給自足、迷宮内で食べられる魔物の肉が主食となる。
だからといって肉だけでは味気ないし、飽きる。
アレクは香辛料系をいくつか買い、袋にしまう。
味に変化をつけることで少しでも食に華を添えるのだ。
店をでると荷袋の中身を確認し、買うべきものに漏れがないことを確認した。
袋を閉じる。
まだ集合時間までは余裕がある。
アレクは一旦宿に戻ることにした。
……いや、戻らなければならない。
これから行う一番厄介な仕事に、アレクは思わず溜息がでた。
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