第二十六話「迷宮村」
アレク達が集合場所に着くと、全員揃っていた。
心配していたラフィも来ていた。
一時間前とは違い、身だしなみを整え、いつものとんがり帽子をのせた姿だ。
……主の動きに合わせて、とんがり帽子がじゃっかん横に揺れている気もするが。
アレクはラフィの側に行き、声を掛ける。
「大丈夫なのか」
「ダイジョウブ」
杖を支柱に気合で立ってるような状態に見えた。
アレクは購入したポーションを一本渡す。
「二日酔いに効くかは知らないが、飲んでみたら多少はましになるかもな」
「ありがとう……」
震える手でポーションを受け取ると、ラフィはこくこくと飲む。
飲み終わると、身体の調子がだいぶよくなったようだ。
「アレク、ポーションは二日酔いに効く」
「そうか。今飲んだポーション一本金貨三枚だからな」
「え゛」
ラフィは固まった。
金貨三枚もあれば何冊も魔術書が買える。
アレクが背を向け、ゲルト達の方に足を向ける。
ゲルトはアレクに声を掛けてきた。
「今日はすまないな。
……ところで、彼女は大丈夫なのか?
昨日と違ってやけに言葉数が少ないが。
二日酔いで体調が悪いのでは?」
「二日酔いなのは否定しないけど、酔っぱらってないラフィは口数少ないのがデフォルト。
昨日の姿がおかしかっただけだから、気にしないでやってくれ」
「そ、そうか。ならいいが」
固まってたラフィも合流したのを確認すると、ゲルトが口を開く。
「改めてだが、俺のわがままに付き合ってくれて感謝する。
俺達の目的は、マリヤとアリスの救出。……最悪の場合は遺体の捜索だ。
そのため何としても迷宮の地下へ繋がる道を探したい。
だが、一週間何の進展もなかった。
何かいい案はあるか?」
ゲルトの問いに、ラフィはすぐさま答える。
「まず、崩落した現場をみたい」
「わかった。まずはそこを目指そう」
異論をはさむ者はいない。
最初の目的地は決まった。
◇
六人は迷宮にもぐる。
アレクはちらりとラフィの様子を確認したが、もう大丈夫そうであった。
見慣れたラフィの姿。
杖を片手にピンと伸ばした姿勢で歩いている。
崩落したという場所は、入口からそう時間を掛けずに到着した。
「ここのはずなんだが……」
ゲルトは自信なさげに声を上げる。
「穴がなくなってる?」
クロエが驚き口にする。
目の前には歩いてきた道と変らず、崩落した痕跡が全く見られない。
「最後にここに来たのはいつなんだ?」
アレクの疑問にミハエルがすかさず答える。
「崩落があった次の日、それからは一度もここを通ってないな」
ラフィはしゃがみ、地面に手を当てる。
「何かわかるか?」
アレクは傍により尋ねると、ラフィは小さく頷き、答える。
「迷宮自体が魔力を帯びてる。
推測だけど、時間が経過するごとに構造が少しずつ変化してる」
「そんな……!」
ラフィの推測にクロエが驚き、絶望の声を上げる。
ライムントが言葉をつなぐ。
「変化しているということは、下に繋がる道も絶えず変化しているということですか?」
「いや、下に繋がる道は元々ないんだろうな」
アレクも口を挟み、分かったことを教える。
「少し歩いてみてわかったが、この迷宮の道は若干だが傾斜している」
「そうなのですか?」
「ああ」
「じゃあ、奥へ奥へと進んでいけば下にいけるということか?」
「全部の道が下に傾斜してるとは限らないがな」
「結局、地道に探索するしかないってこと?」
下に繋がってるとはいえ蜘蛛の巣のよう道は張り巡らされており、地道に探索するにはあまりにも数が多すぎる。
皆そのことをわかっており、会話が途切れた。
さらにゲルト達の話では、仲間が落ちたという穴は相当深いはずだ。
わずかな傾斜、奥深くに到達するまでどれほどの時間がかかるか想像できない。
まだ、迷宮のどこかに階段があるといったほうが希望を持てた。
「大丈夫」
静寂をラフィが打ち破る。
「この辺りは魔力が薄い。
これは推測だけど、迷宮の下にいけばいくほど魔力は濃くなるはず」
「つまり、魔力が濃いほうを辿っていけば、おのずと奥に進めるということか?」
ミハエルの要約にラフィは短く「そう」と肯定した。
「なら、彼女の案を採用しよう。どの道俺らに案はない。
ミハエルもいいか?」
「俺はゲルトの臨時メンバーだ。お前の言葉に従うさ」
「助かる。魔力が濃いほうの方向はわかるのか?」
「大丈夫」
「よし。すまないが先頭を頼む」
方針が固まり、ラフィを先頭に移動を開始する。
少し進むと、開けた空間に出た。
アレクはそこで見たものは、迷宮の中であることを疑いたくなる光景であった。
空間には露店がところ狭しと並ぶ。
どこから運び込んだのか、よく見ると材木で組まれた建物もある。
建物には宿屋を示す看板。
冒険者街迷宮支部みたいな様相である。
ただ、看板に書かれている宿泊費や露店に並ぶ品々の値段はぼったくりに近い価格である。
隣を歩くライムントに尋ねる。
「ここは?」
「そのまま、迷宮村とか呼ばれたりしますよ」
苦笑しながら教えてくれた。
めざとい商人は、王都迷宮が開放されるとすぐに冒険者ギルドにアレク達と同じように王都迷宮に入るための護衛の依頼を出した。
中に入るとそのまま滞在し続け、商売をしているわけだ。
最初は冒険者に必要な雑貨の露店程度であったが、日に日に品数も増え、今では宿屋や武器屋、酒場まで経営されるようになっていた。
迷宮が王都の下という異常な立地により奇妙な光景が誕生したわけだ。
入口に近い空間ではアレク達が今いる場所と同じような「村」がいくつか見られた。
王都迷宮の本来の入口から「村」までは、村を経営する商人達が冒険者ギルドに魔物の討伐依頼を常に出しているため、実質迷宮の入口はこの「村」の先からとなっている。
「村」の様子にアレクとラフィはあっけに取られながら、入口から出口へと向かう。
「何かすごいな」
「うん。びっくり」
今回の目的は迷宮の奥だ。
アレク達の一行は「村」に滞在することなく、すぐさま出口へ。
迷宮の奥へと進んでいく。
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