第十八話「堕落」

 

 俺は校長室を出ると、さっそく図書館へと向かう。


(奥義みたいな魔術が書かれた本もあるのかな)


 鼻歌交じりに西側の大塔を目指す。

 目印が大きいこともあり、道に迷うことなく図書館へとたどり着いた。

 中に入ると、多くの生徒が本を探し、フロアの所々にある椅子に腰を掛け本を読んでいた。 

 キョロキョロと辺りを見回し司書長を探すことにした。

 ふと、俺は視線を感じる。 


(何か目立っているような……)


 俺が図書館に足を入れ、本棚を一瞥しながら歩いているとすれ違いざまに視線を感じるのだ。


(こんなでっかい杖をもってるからか)


 サザーランドからもらった世界樹の杖は手に持っていると俺の身長よりも少し高い。

 ローラから魔術師は師匠からもらった杖は常に肌身離さず持っておくのですよ、と忠告を受け俺はコクコクと頷いたのだが、図書館内で杖を持って歩いてる生徒とはすれ違っていない。


(校内でも見てないよな?)


 今更、ローラに騙されたことに気づいた。

 そのことに気づき俺は恥ずかしくなり赤面する。

 今度から杖は部屋に置いておこうと固く決意し、顔を下に向けながら目的の司書長を探す。

 本に目移りしながら、広いフロアを探索してると一角に司書室と書かれた部屋を発見した。

 扉の前に立ち、ノックしようとすると勝手に扉が開いた。

 少し驚いたが遠慮なく俺は中へと入る。

 校長室と同じような執務室をイメージしていたが、目に飛び込んできたのは本の山だった。

 俺は自分の寮の惨状を思い出し親近感を抱いた。


「何だ、閲覧許可申請か?」


 本の山から椅子に腰かけた白銀の髪をもち眼鏡をかけた青年が見えた。

 こちらに目もくれず手元の本を読んでいた。

 きりのいいところまで読んだのか、本を閉じ初めて俺のほうに目をやり、固まる。


「部外者がどうやって入ってきた?

 ……いや生徒だったか、すまない」


 白銀の青年は俺の胸元のバッジを確認し謝罪した。


「あぁ、そうか君が噂になっていた十歳で入学したという天才か」


 噂になっているのか。

 俺はちょっと嫌そうな顔をし、目の前の青年に挨拶をする。


「初めまして、アリス・サザーランドです」

「アントン・ブルックナーだ。

 この図書館の司書長だ」


 俺はブルックナーのレベルを確認してみると、レベルは30だった。


「僕を訪ねてきた用件を聞こうか?」

「これを司書長に渡せば図書館での閲覧権限を貰えると聞き……」


 ルシャールから預かった紙をブルックナーに渡す。

 それを受け取るとブルックナーは目を見開く。


「全閲覧権限の許可だと?」


 紙と俺を交互に見る。

 信じられん……と呟きながら何やら紙に魔術を掛ける。

 『偽装探知』という魔術であった。

 その魔術でも紙は本物であると証明しているようであった。

 

「本物だな。

 驚いた、その年でここにある全てを知る権利を与えられるとは。

 まぁいい、バッジを貸してくれ」


 バッジを渡す。


「《ブルックナーの名の下に、この者に最高権限の入室許可を与える》。

 これでこの図書館のすべての階に入室できる。

 返すよ」

「ありがとうございます!」

「図書館を使うのは初めてだよな?」

「はい」

「なら、ついでだから案内してやろう。

 付いてこい」


 ブルックナーはそういうと立ち上がり本の山をかき分け、扉から出ていく。

 俺も後に続く。



 ◇



 ブルックナーからの、せっかくだから11階まで行くかとの誘いに乗り、二人は終わらない階段を登っていた。

 傍らでブルックナーが各階に所蔵されている本について簡単に説明してくれた。

 全生徒が閲覧できる階は様々な分野の本や、学問的なものだけでなく娯楽本も多く入っているとのことだ。

 やはり本は貴重品らしく、様々な本が置いてある図書館は生徒に人気の場所となっているようだ。

 四階からは魔術書の傾向が強くなり、一定の知識と良識をもってるものにしか閲覧を許可していないとブルックナーは説明した。

 七階より上は魔術書のほかに王国の歴史書などを保管してるとのことだ。

 勿論下の階より上位の魔術に関する魔術書が多くあると教えてもらい、俺は目を輝かせた。

 

 十一階に辿り着く。

 塔の天窓から淡い光が振り注いでおり、キラキラと埃が照らされていた。


「ここが最上階だ。

 ここにある本は……、見てもらった方が早いか」


 ブルックナーは本棚から適当に本を取り出し、少し俺に渡すのを躊躇ったが「校長が認めたのだから」と頭を振り、渡してくる。

 読んでみろと促され、俺は本を開く。

 見たことのない文字だったが、すぐに意味を理解した。


「これは……」


 読み進めていくうちにアリスの可愛らしい眉間にしわがよる。


「閲覧許可を貰うだけはある。

 その本の内容がわかるようだな」


 端的に言えば、そこに書かれた魔術の内容は多くの人を生贄にした召喚魔術について書かれていた。

 

「ここに集められているのは禁書だ。

 王国が危険と判断し、人目のつかない場所に保管することを指示した書だ。

 まぁ、大抵の本は中身を読めなかったりするが……」


 ブルックナーはまた俺を一瞥する。

「もしかしたら」と呟き、再び本棚から一冊の本を取り出す。

 その本を受け取る。


(これは!)


 本を受け取ると『石像ゴーレム召喚』というスキルを習得した。

 何やら面白そうなスキルが手に入った。

 スキルを習得したが、一応中身を目に通す。

 

「ブルックナー様、この本すごいです!」


 目を爛々と輝かせ、俺はブルックナーに話しかける。


「内容がわかるのか!?」


 何故かブルックナーも興奮していた。

 ブルックナーはここにある本の内容を解明するのが趣味らしい。

 中には謎の言語で書かれており、全く解明の糸口が見えない書も数多くあるとのこと。

 そのうちの一冊が今俺に渡した本であった。


「はい、これは『石像ゴーレム召喚』という魔術みたいです」


 中身は土魔術でつくった石像に精霊の加護を与え疑似的な生命体としてうんぬんと書かれていた。

 精霊召喚のためのヒントになりそうなことも多く書いており、興奮したのだ。


「……この魔術を使ってみてはだめですか?」

「……校長に許可をとろう」


 俺から見たブルックナーの第一印象は寡黙で人を寄せ付けないオーラを放っているような人物であった。

 が、今のブルックナーはサザーランドと同じ悪い考えをしていた。

 魔術師という人間は好奇心に正直だなと俺は改めて思った。



 ◇



 ルシャール立ち合いのもと、中央広場でスキルを試してみた。

 せっかくだからでっかい獅子の姿をした石像を召喚しようと思いながら、やたらと長い詠唱を唱えた。

 しかし、召喚されたものはアリスの想像とはすこし違いどうみてもでっかい猫だった。

 威厳よりも愛くるしさが前面にでている。

 口を開け大きな欠伸をしている。

 何か違うと項垂れている傍ら、ルシャールとブルックナーは大はしゃぎであった。

 大人が「すごい!すごい!」と連呼してる。

 満足しただろうと思い、土塊に還そうとしたら二人に止められた。

 結局、その石像は広場に残すことになった。

 俺が待機を命じるとただのでかい猫の像になった。

 今でも中央広場のど真ん中を占拠している。

 名前を付けてやった。

 ししまる。

 レベル50だ。

 無駄にレベルが高い。


 気をよくしたルシャールは俺が図書館に立ち寄ると色々なオススメの魔術本を教えてくれた。

 その報酬としてルシャールが興味を持った本の内容の解明に協力することになった。

 最初は少しめんどくさいなと思ったが、割と興味を惹かれるものが多かったので俺も積極的に協力するようになった。

 十一階に籠ることが多くなった。

 そんなある日。


(やってしまった)


 目覚めると天窓から夕陽がさしていた。

 今日は確か入学式であった。

 初日から不登校を決めてしまったわけだ。


(まぁ……、明日から行けばいいか)


 次の日


(まぁ……、授業受けなくてもいいっていわれてるし)


 今はここの魔術書を読むので忙しいのだ。


 こうやって俺は堕落した。


 

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