第十七話「漏れてる秘密」


 俺は入学式の三日前から王立学校での生活を始めた。

 王城で借りていた客室を引き払い、これから五年間お世話になる部屋に私物を運びこんだ。

 勿論一人では運び込めないのでローラが手配してくれた。

 ローラにも協力してもらい、アニエスには入学することをまだ秘密にしている。


(これは……、ひどいな)


 俺は部屋に運び込んだ私物の量に愕然としていた。

 狭くはない部屋なのだが、王城の客室と比べると半分くらいの広さだ。

 その部屋は初日からサザーランドがくれた大量の本で埋もれていた。

 

(まぁ寝れればいいか)


 早々に整理することをあきらめた。

 他にもローラがあれもこれもと持たせた私服が一角を占拠している。

 俺は一人暮らしをするにあたりローラから服の着こなし方から髪の結い方まで女性としての最低限の身だしなみの整え方のレクチャーは受けた。

 王立学校には制服が指定されている。

 俺は基本制服でいいかなと考えていた。


(毎日服を選ぶのも大変だしな……)


 着てきた私服を脱ぎ、さっそく制服に手を通してみることにした。

 少し袖が余っている。

 ローラに成長期だから少し大きめのサイズにするべきとのアドバイスを受けた結果だ。

 部屋に備え付けられた鏡でその姿をチェックする。


(ちょっと背伸びしてる子みたいだな)


 この小さな身体では仕方がないと、溜息をつく。

 もう少しすればきっと背も伸びるだろう。

 杖を手に持ち、ルシャール校長のもとへ行くことにした。

 学校に着いたら挨拶に来るよう言われていたのだ。



 一度、サザーランドと校長室を訪れたはずだが道順は全く覚えていなかった。

 学校の生徒と思しき人に道を尋ねながら、校長室に辿り着いた。

 ノックをすると中から返事があり、中へと入る。

 

「よく来たね。

 そこにかけな」


 俺は中央に鎮座しているテープル横のソファーに腰掛ける。

 ルシャールも正面に座った。


「改めて、わが校へようこそアリス」

「ありがとうございます」


 ルシャールから以前サザーランドと訪れた時のようなトゲトゲしさを感じなかった。

 

「一応あの後、じじいからアリスの大体の魔術の実力は聞いている。

 正直、君がこの学校で教わるような魔術はないだろう。

 アリス、バッジを少し貸してくれないか」


 俺は胸のバッジを外し、ルシャールに渡す。


「《ルシャールの名の下に、この者に最高権限の入室許可を与える》。

 はい、返すよ。

 これで君はこの学校のあらゆる場所に入室することができる」

「あらゆる場所というのは、図書館の最上階もですか?」

「もちろんだとも。

 ただ図書館の司書長からの許可は一応貰わないといけないから……」


 ルシャールが執務机の方に手をかざすと、机の棚が開き中から一枚の紙がふわふわと飛んでくる。

 その紙にルシャールはサインする。


「図書館の一階に司書長がいるから、これを見せてくれ。

 そうすれば図書館の閲覧許可ももらえる」

「ありがとうございます!」


 どうやって上位階への入室許可を貰えるのだろうと疑問に思っていたのだが、頼んでもないのに許可が貰えた。

 俺は内心でガッツポーズをした。


「勇者様である君にいうことではないかもしれないが、所蔵されている本の中には危険な魔術が書かれているものもある。

 くれぐれも使い方を誤らないように」

「あっ、やっぱり俺……、私が勇者ということは知ってましたか」


 秘密のはずが俺の知らないところでどんどん広まってる気がする。

 

「安心しろ。

 この王国で知っているのは陛下、ガエル殿下、サザーランド公爵、ベルリオーズ騎士団長、君の周りを王城で世話していたメイド、そこに加えて私。

 これで全員だ。

 この情報について、陛下の勅命でこれ以上は他言無用となっている」

「……まぁ今はこんな姿なので誰も信じないでしょうがね」

「ははは、そうだな!

 誰もこんな少女が実は勇者だとは思わないだろうね」


 その後、ルシャールは学校の俺への扱いについて説明した。

 俺は王立学校設立以来の特別枠の生徒であり、学校へ籍は置いているが授業を受けるか受けないかは自由であると。

 ……言い換えれば全部授業をさぼってもいいとのことだ。


「私にはじじいの考えは知らないが、陛下は君を五年間はこの王国に縛り付けとくのが目的なんだろうね」

「それ、私の目の前で言っていいんですか?」

「さあな。

 でもまあ、君がすぐにここに飽きることはないだろう。

 それだけはアルベール王国王立学校134代校長であるハンナ・ルシャールが保証するよ。

 ここでの生活を存分に楽しむがいい」


 ルシャールはサザーランドに似た悪戯っぽい笑みを俺へと向けるのであった。


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