幕間「悪辣なる胎動」
大陸中央の東側に位置する場所にイルミダス教皇国は存在する。
イオナ教を国教とした大陸中央最大の国家である。
教皇庁のとある一室。
七人の人物が円卓に座っていた。
互いに存在は知っているがその正体を知らない。
全員が《認識阻害》の魔術により隠蔽されているのだ。
その一人、バルトロ・ジンネマンは静かに耳を傾ける。
「ガーランド帝国が滅びたのは実に痛ましいことだ」
「なに、かの国は最近信仰心が不足していた。これも天罰よ」
「アルベール王国もあと一歩だったが……、
「案山子の教皇を使い援軍を遅らせたというのに、あの国も存外しぶとい」
ジンネマンの表向きはイルミダス教皇国の国家魔術師である。
主な仕事は異端審問。
趣味と実益を兼ねた天職であった。
異端者は人にあらず。
それが教義である。
ジンネマンは死者を極秘裏に捕獲して実験をしていた。
異端者を死者に喰わせる。
死者に喰われた者も死者となった。
死者に個としての意思はないが、ただひたすらに仲間を増やす。
実に興味深い。
観察してみたところ、死者は物を喰らっているわけではなく、対象の魔力を変質させていることがわかった。
残念なことに、その事実に気づいて間もなくジンネマンが飼っていた死者は消滅した。
死者に
魔力が変質させられていたことの証明として、元人であった死者は死体を残さず消滅した。
同じように魔力の変質から生まれると言われている魔物は魔晶石や死体を残すから不思議である。
この時は掃除の手間が省けたからよしとした。
また研究熱心なジンネマンは慈悲深い信徒でもある。
異端者にも時には慈悲を与えた。
最近は異端者に自身の魔力を分け与えている。
魔力を変質できるかの実験だ。
残念なことに、実験は未だ成功しておらず異端者は皆愛すべき神のもとへ旅立っている。
「ガーランド帝国の調査は無事終わったそうだ」
「ふむ。では、もうあの国に価値はないな。どこか適当な者にあとは任せるか」
「問題は不死の王を退けたという勇者、殺せるのか?」
「それならば問題ない」
ジンネマンは今日初めて発言する。
異端審問の密偵からの報告だ。
王都凱旋の日、勇者は突如倒れた。
王国内では疲れによるものだろうと噂が流れていた。
調べると噂の出処は王国政府によるものだ。
数日後に勇者は王国の催しに姿を見せていたが、凱旋の時には付けていなかった仮面をつけていた。
密偵の探知スキルによると、勇者とはレベルが違うとのことだ。
あれは影武者であると断定した。
さらに王国城内の情報より勇者は過労ではなく
「ふん、
「アルベール王国での準備は先の災厄の間にほぼ完了しているが……」
「国の滅亡に瀕しながら、予備兵力はそこそこ残っていたのだな」
予め用意されていた資料に初めて目に通す。
確かに、一年前は最終防衛線まで押し込まれたと聞いていたが十分な戦力が記載されていた。
「ならば、復興のために多種族国家の運営を叫んでいたガエル殿下の手腕に期待するとしよう」
「それがよかろう」
「ガーランド帝国での復興は容易ではなかろう。何しろあそこは今や魔の巣窟じゃ」
「案山子へは我から伝えておこう」
言葉もなく会議は終了する。
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