第九話「冒険者ギルド」


 朝起きると俺の長い髪は大変なことになっていた。

髪を忌々し気に触る。

 ひとまず髪を放置して寝間着からローラが寝る前に用意してくれた服へと着替える。

 昨日と違うデザインだが、ヒラヒラがたくさんついてる点は一緒だった。

 悪戦苦闘しながらなんとか着ることができた。

 測ってたようなタイミングでローラが訪れた。

 服をところどころ着付けされ、椅子に座るように促される。

 ローラは丁寧に俺の髪に櫛をとかしていく。

 ありがたい。

 男の時とは違い、身だしなみを整えるのに時間がかかる。


「毎朝これはしんどいな……、今度髪を切ってもらえませんか?」

「だ、駄目よ! せっかくのきれいな髪なのに!」

 

 と、ローラに相談しているとアニエスが訪れた。

 アニエスが「絶対だめ!」と強く主張するので髪を切るのは諦めざるを得なかった。

 俺の髪をとかし終わると、アニエスが髪を結いはじめた。

 ローラもそれをニコニコと眺めている。

 完成した本日の髪型はアニエスとお揃いである。

 朝食の席にはガエルも座っていた。

 

「髪型が一緒だと二人は本当の姉妹のようだ」


 と呟いていた。

 アニエスは終始ご機嫌であった。



 ◇



 アニエスはお茶会に招待されてるとのことで朝食後、お出掛けらしい。

 一緒に行きましょうとのお誘いを受けたが、礼儀作法に疎いので今回は辞退した。

 断ると見るからにしょんぼりしてしまったので、後日礼儀作法を教えてくださいとお願いしたら元気になった。

 俺は王都を散策することにした。

 召喚された時にすこし立ち寄ったのと、この前の凱旋パレードで大通りを歩いたくらいしかこの街について知らないのだ。

 ついでに冒険者ギルドに行ってみようと思う。

 いつまでもガエルの庇護下で食うか寝るかの生活は人としてまずいと考えたのだ。



 アルベール王国の王都は円形の城壁に囲まれている。

 その中央に聳え立つのがアルベール城。

 城から城壁に向かう八本の大通りと城壁内の内周に円形の通りが整備されている。

 この通りにより王都は大きく分けて一六区画あり、それぞれの区画で特色をもつ。

 今俺が向かっている十四区は南門近くに位置し、「冒険者街」として発展しているとローラに聞いた。

 城の外を出て、大通りを南下する。

 不死の王ノーライフキングに支配されていた土地が解放され、少しずつだが復興が始まってた。

 当然、大陸北部の玄関であるアルベール王国がその拠点となっている。

 大通りは荷馬車がひっきりなしに往来している。 


 十四区に入る。

 まず目的の冒険者ギルドを探すことにした。

 キョロキョロと辺りを見ながら歩いていく。

 道行く人々の注目をその出で立ちから浴びていたのだが俺は全く気付いていなかった。


 何となく人が多い方向に向かっていくと冒険者ギルドはあっさりと見つかった。

 南の大通り沿いにその建物はあった。

 他の建物と比べて一回り大きい。

 入口の上に「冒険者ギルド」と書かれている。

 冒険者と思しき集団が出たり入ったりするのも確認できた。


 俺は冒険者ギルド内に入る。

 まず目に飛び込んだのは人が集まっている一角。

 依頼書が貼られておりチーム内でどの依頼を受けるか話し合っているようだ。


 アレクの話では迷宮ダンジョンの探索をメインとした者を冒険者と呼んでいたが、それは一部の者だけだった。

 冒険者にとって基本の収入源は街の周囲の魔物の討伐だ。

 国に所属する騎士が主に討滅任務にあたるが、騎士だけでは間に合わないので国から冒険者ギルドに定期的に依頼が出される。

 もちろん冒険者ギルドは国からだけでなく個人の依頼も受け付けており、冒険者にそういった依頼も斡旋している。

 依頼はペット探しから商隊の護衛といったものまで多種多様だ。

 迷宮ダンジョンについてだが、迷宮ダンジョン内は珍しい魔物の素材や精霊の加護のついた装備が手に入る可能性があり一攫千金を夢見る者も多い。

 しかし今存在が知られている迷宮ダンジョンは冒険者ギルドが管理しており、ある一定のランクに達してないと入場許可が下りない。

 これは実力が伴わない者の死体をいたずらに増やさないための処置らしい。

 迷宮ダンジョン内は多くが魔力溜まりとなっており、死体を放置するとアンデッド系の魔物に変異し迷惑というのも理由になってるみたいだ。

 

 といった内容を冒険者ギルドの受付横にある「冒険者ギルド規約」とい本をパラパラと捲り知った。

 冒険者になりました、よし迷宮ダンジョンに行くぞ!とはならないわけだ。

 ……まぁ、冒険者にならないことには始まらないか。

 冒険者に登録するため、意気揚々と受付に向かう。


「すみません、冒険者ギルドに登録したいのですが?」


 受付のお姉さんは何故か少し困った顔をした。


「ごめんなさい、冒険者の登録は十五歳以上からとなっております」

 

 夢見ていた冒険者生活の妄想を打ち砕く一言。

 いや、待て。

 俺は、私は元々十七歳だったわけだ。

 受付のお姉さん、人を見た目で判断するのはよくない。


「こうみえても、私は十七歳だ!」


 認められなかった。

 

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