第3問 あのバスに乗っていれば

「普通に考えたらその家族の母は頭おかしい人だな」


 そのままバスに乗っていたらその家族も一緒に事故に遭ってしまうのに、母は乗っていれば良かったと言うのは意味が分からない。

 自殺願望でもあったのか?


「それ質問ならNO。 母は精神身体共に正常な人だよ」


 正常な人か。

 自殺願望があったわけでも無さそうだ。


「なら、交通事故に遭った人達には賠償金があったとか?」


「面白い質問だけどNO」


「そのバスが事故に遭ったのは、家族が乗っていた日で間違いないのかしら?」


「うん。 後日事故に遭ったとかそういう話ではないよ」


「もし降りずにバスに乗っていたとしたら、その場合でも同じことを母は言いますか?」


 3人の質問に黙々と返答するなかつだったが、鶴舞の質問にはしばらく唸ってから答えた。


「それはどうだろう。 YESともNOとも言えない」


 バスにそのまま乗っていた場合は違う結果になっていたのだろうか?

 おそらくここがこの問題のキーポイントなのだろう。


 正解の糸口を見つけ何としても鶴舞より早く正解したい!

 今月は俺の財布がピンチなのだ!!

 毎月ピンチな気がするがそれは置いておこう。


 とにかく無駄な出費は極力避けたい。


「バスから降りたのはその家族だけだったのか?」


「YES」


「バスの中では何か特別なことでも行われていた?」


「いや、そういうことはないけど……達也の質問ってたまに面白いよな」


「うんうん。 そしてたまに鋭い!!」


 そうか? 思い付いたことをただ聞いているだけだぞ。


 ふと時計を見た。 あと10分。

 時間切れでも俺の敗けなのだ。

 なんとか答えにたどり着きたいが、まだ情報が足りない!


 ここは今一度状況を整理しよう。

 娘がお腹が痛いという理由から家族はバスを降りた。その後乗っていたバスが交通事故に遭うが、母はそのバスに乗っていれば良かったと言う。母は頭のおかしいサイコパスだとかいう話でもない。バスに乗っていれば何かメリットがあったわけでもない。ポイントはそのままバスに乗っていれば、違う状況になっていたであろうこと。




 違う状態か……………そうだ!!

 俺はあることに気づいた。

 バスにそのまま乗っていれば事故が起きなかったのでは!? もし事故が起きなかったのならば、母がバスに乗っていれば良かったと言った理由も分かる。

 これは質問より解答の方が良さそうだ。


 俺からのLIME見たなかつは驚き、反応する。


「達也凄いな!? そうだよ! そうなんだよ!! だけど……おしい。 なぜそうなったのか答えて欲しいんだよね」


 おしい、のか。

 でも降りずに乗っていたら事故に遭わなかったのは当たっているようだ。あとはなぜ事故に遭わなかったのか理由を考えればいいらしい。


「ふぇ!? 達也分かったの!? パン奢ってもらえないじゃん!」


 勝つ前から既に奢ってもらう気でいたのか?

 なんて図々しい奴だ!


「タヌキの金山くんには負けたくないわ。 中津川くん。 もう時間も無いことだし、ヒントを貰ってもいいかしら?」


 どうもタヌキ金山です。


 なんてボケている場合ではない!!

 ヒントだぁー!? ヒントなんていらん!

 俺のリードが無くなってしまうだろ!!!


 あーでも時間が無い!

 答えられなければ俺の敗けなのだ。


 仕方ない、ヒントを貰おう。

 どうせ俺には拒否権は無いのだから。


「じゃあ2人にヒント! 家族がそのままバスに乗っていれば事故は起こらなかったんだ」


「え!? そうなの?」


「うん。 まあ厳密に言えば、事故が起こらなかったかもしれない、かな」


「事故が起こらなかった理由を考えればいいのね」


「そうだよ。 流石に2人だけ得するヒントは達也に悪いから、達也には違うヒントを教えるよ」


 そう言うとなかつは俺の個人チャットにメッセージを送ってきた。


『バスにそのまま乗っていたら何が変わると思う? 気持ちだとかそういう曖昧なものじゃなくて明確に分かるものが変わるよ』


 何が変わるか、か。

 ぱっと思い付いたのは、家族の体重分バスの重さが変わる。だが重さが変わったところで事故が起こらない理由にはならない。


 家族がバスから降りたことで、運行ルートが変わったとか?これだと事故が起こらなかった理由になりうるが、答えだと断言はできない。


 もう少し質問をして答えを絞っていく方がいいな。


 ちなみにあと5分。 時間は無いぞ。


「事故の詳細は答えと何か関係するか?」


「うーん。 どんな事故であったかはそんなに重要では無いけど、他の車との衝突事故だったと思ってくれればいいよ」


「家族がバスから降りたことで何か状況が変わったのかしら?」


「YES」


「降りた場所は関係ありますかぁー?」


「NO。 どこでもいいよ」


「バスから家族が降りたことでその後ルートが変わったりはしたの?」


 倉本は俺が先ほど考え付いた答えを質問する。


「そこはYES、NOどちらでもいい」


「そう。 なら分かったわ」


 倉本分かったのか!?


 なかつは倉本の解答を見て答えた。


「倉もっちゃん正解!」


「そう? 良かったわ。 時間が無かったから他の理由を消去しきれなかったけど」


「そうだね。 今の状況だと色んな答えが考えられるから、その中でよく答えられたね」


「凛よく分かったね! 私まだ……」


 俺は残り時間を確認するため時計を見た。

 クソッ! もう時間が無い。

 もう少しで答えにたどり着けそうなのに、もう少しだけ時間があれば………


 時間?…………そうだ!!

 そうかそうか。 そういうことなのか!


「あと2分だし大ヒントだそうか?」


「いや、ヒントはいらない! 分かった」


 なかつの助言を俺は遮って答えた。


「え!? 達也分かったの!?」


 運行ルートやバスの状況が変わったのでは無く、家族がバスから降りたことで明確に変わったもの。時計を見てやっと気づいた。


 答えは時間だ。

 家族がバスから降りたことで時間が遅れたのだろう。


 俺の解答を見たなかつは微笑み、その表情を見た鶴舞は机の上で突っ伏して崩れるのであった。






「さて、倉もっちゃんが1位で達也と瑠美ちゃんは引き分けになったけどどうする?」


「別に引き分けでいいんじゃねぇーの?」


「やだ! どっちが最下位か白黒はっきりつけたい!」


 はっきりつけたいと言っても、もう下校時間だし無理だろ。


「じゃあ帰り道にサドンデスでもう1問やろうか?」


「帰りもやるのか!? でも、なかつ俺らと家の方向違うだろ」


「僕はちょっと遠回りするくらい構わないさ」


 なかつは構わないのかもしれないが俺が困る。延長戦となったときの鶴舞の勝率は異常なのだ。


「本当!? じゃあサドンデスで勝負つけようじゃないの達也!」


 相変わらず俺の話を聞かないな。

 

 …………仕方ない。サドンデスやってやろうじゃねぇか!白黒つけようとしたこと、後悔させてやる。






 次の日、結局俺は2人にパンを奢ることになった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウミガメのスープを1杯どうぞ。 巽 彼方 @kolo11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ