15話目 幼なじみと休日デート?!

「だーかーらー、水族館でいいって言ってるでしょ!!」


「いーや!遊園地だ!!」


わたし達の間で火花が散る。

それをりょうとゆうが困ったように顔を見合わせていた。


✱✱✱✱✱


遡ること10分前


「もうじき時間だな。」


さすがに早く着きすぎたわたし達は駅前の喫茶店で時間を潰していた。


グラスの中で水になりかけたアイスココアの氷がカランと音を立てる。


「あ、うん。」


とわたしが短く返事をする。


待ち合わせである駅手前の時計の前まで来てみたものの、まだ2人は来ていないようだった。


忙しなく流れる人の波。

ざわざわと行き交う人の声。


わたしが「はぁ...」とため息をつくと、見かねたように彼が口を開いた。


「今日、晴れてよかったな。出かけるには絶好の日和だ。」


「え...あ、うん。そうだね...そういえば...今日ってどこに行くの?」


そう言うわたしに彼は楽しそうに持っていたスマホをすいすいなぞり、あるホームページの画面を見せてきた。


「水族館!」


無邪気に笑う顔がなんだか可愛く見えた。

思わず吹き出しそうになり「そうなんだ」と誤魔化し顔を背けるとある電子ポスターに目が止まった。


晴れた空に大きくカラフルな観覧車。

手前では最近人気になってきた怖かわクマのくーちゃんが描かれていた。


その画面がゆっくりスクロールすると次に

『遊園地でくーちゃんに会おう!

来てくれたお友達全員にくーちゃんストラップをプレゼント!さらに、くーちゃんとじゃんけんして勝ったお友達の中には非売品“壊れかけくーちゃんぬいぐるみ”をあげちゃうよ!イベントは今日まで!ぜひ来てね!』

という文字とともに口が縫い塞がれ、両手足に包帯を巻き、目には大きなボタンを付けられた色あせたような灰色のくーちゃんぬいぐるみの写真が出てきた。


「くーちゃんぬいぐるみ...」


わたしがつぶやくようにそう口にするとこちらの様子に気づいたのか平井が「ん?」と電子ポスターとわたしを見比べてくる。


「...今日、遊園地にする?」


彼の言葉に思わずパッと顔を上げるもすぐ我に返り手に持っていたスマホへと視線を移した。


「いや、でも、皆で行くんだし...予定通り水族館でいいよ。遊園地は別に今日じゃなくても行けるし...」


「え、でも、あのクマ貰えるの今日までだろ?」


彼の言葉に心が揺れるも


「いいって。高校生にもなってぬいぐるみとか痛いし...別に、欲しかったわけじゃないし。」


と吐き捨てるようにいう。

すると彼は少し怒ったような表情で


「別に痛くねーよ。それに...今日はお前の為に集まるようなもんなんだから...お前の好きなとこ行くよ。」


といった。


「だから、別に行きたいわけじゃないって。」


彼の言葉に何だかムキになってしまう。


「なんでいっつもそう強がるかな。」


平井は呆れたような、拗ねたような顔でつぶやいた。


「なっ...強がってなんかないでしょ?!」


「完全に強がってるだろ!!いいから、今日は遊園地に変更!!」


「水族館でいいって言ってるじゃん!!」


✱✱✱✱✱


そんなこんなで現在...


「水族館でいいって言ってんじゃん!!このわからず屋!!」


「なっ...だから遊園地行くって言ってんじゃんか!この天邪鬼!!」


言い争うわたしたちの間に割ってはいるようにりょうとゆうが体を滑り込ませる。


「りょうだって、水族館がいいよね?!」


「は、え?いや、俺は別に、どっちでも...」


キッとわたしが睨みつけるとりょうは「ひっ」と小さく悲鳴をあげ「あ、う、うん。俺も水族館がいいな〜」と目を泳がせた。


「ほら!!りょうだって水族館がいいって言ってるでしょ!!」


「今の完全に脅しじゃんか!!それなら真田だって、遊園地の方がいいよな?!」


突然話を振られたゆうが「へ?!」と驚いていると平井は誘導するように「遊園地だよな?」ともう一度低い声で聞いた。


「あ、はい、う、うん、そう、かな?」


困った顔で笑うゆうに彼は再びこちらを見ると「真田だってこう言ってんだろ!!」とわたしの手首を掴んで改札の方へと向かう。


「だから、今日は遊園地にするぞ」


彼が言い終わるか言い終わらないかのうちにわたしはその手を払い除け振り返った。


キョトンとした顔のりょうの手を取る。


「今日はわたし、水族館行くから。行こ!りょう、ゆう。」


ずんずんと改札に向かうわたしに彼は「なっ...」と言葉を詰まらすとくるっとゆうの方へ向いた。


「じゃあ俺と真田は遊園地行くから。そっちはそっちで楽しんでこいよ!!」


そう言うと彼は「え、え?!」と困惑するゆうを尻目に反対側のプラットフォームへと向かった。


「お、おい、いいのかよ?めぐー」


「ね、ねえ、戻ろうよ平井くんー」



「「知らない!!あんなやつ。」」



晴れた空に2人の声が響くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る