△9八東夷《とうい》

 全開、オマジュニックパワー。


 詳しい描写は省くが、ピンクがそいやと宙がえりしながら僕のヘルメットを中空で投げつけ、黄色がそれを受けてさらに緑にパス。緑から金色に華麗なセンタリングが上がると、空中で掴んだ金色はそれを地面に叩きつけるようにして置く。


 いつしか赤いヘルメットはカラフルな楕円状の……ええと、何て言うんだっけ、忘れたが、そんなボール状の物へと変化を遂げていた。オマジュネイションは無敵だ。


「赤たちっ、『ダブルラブラブトライセラトップス=ソモシアーノ=セッパ転叫剣』だ」


 波浪田ハロダ先輩がここいちの良い声でそう技名らしきものを高らかに告げてくるものの、もはや誰にも分からねえよ。


 だが。


 悪戯っぽく僕に微笑んでくるミロカさんがすぐ隣にいる。その美麗な顔に傷が残ってやいやしないかが非常に心配ではあるが、いや! そんなのは関係ない、例え傷があろうがなかろうがなぁ……


 ……関係ないんだ。


「……決めるぞ、と金」


 いつもの声だ。いつものミロカさんだ。それだけで、僕の体には意味不明の力が漲る。漲るんだ。


 何故か僕らは「鵜飼ウガイくんっ」「禿頭トクトくんっ」と互いを呼び合いながら先輩の保持している「ボール」に向けて走り出す。そして、

 

 全筋力を、全能力を集約して……


「最……終……決……着、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁあっ!!」


 僕の左足、ミロカさんの右足、寸分違わない究極のツインシュートが、上から「ボール」を押さえていた先輩の右手親指を忠実にわざと巻き込みつつ、化物と化した先女郷サキオナゴウの体に向けて、七色の光を放ちながら射出されていった。


 うねり、うなり、七色の「弾丸」と化したそれは、自らの先を切り拓くように、空気抵抗を受けながらも、着実に推進していく。そして、


 パイセンの右親指の骨が折れたような鈍い音と共に、そして意外に高かった絶叫と共に、先女郷の黒い体に着弾した「ボール」は、起爆した。


 <グヌウウウウウウオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアッッ!!>


 耳をつんざくような断末魔の声を上げながら、次の瞬間、先女郷の身体は五角形の破片となって、爆散し、四散していく。折からの突風に、巻き上げられるかのように上空へ、にじみ消えていくかのように、虚空へ。


 「足場」となっていた「半魚人然」としたボディも徐々に傾き、ほどけ散らばっていった。僕らは自らの意思を持っているかのような動きで差し出されて来た、「ダイショウギオー」の四畳半くらいあるその左掌に乗り移っていく。


 日没が迫りつつある中、一度だけ、何かくぐもったような「声」のようなものが響いた気がしたが、それは僕の気のせいだったのかも知れない。


 何かを告げるかのような、その「声」。


 夕闇に染まりつつある空の下、全ての戦いが終わったことを、僕はその余韻の中で感じていた。

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