△3二盲虎《もうこ》


「……チョ~ォキョっキョっキョキョっ、ワレはヒトの悪手ヨリ生マレシっ、『指した瞬間ケツが座布団から5センチは浮くゲルゲ』ナルゾォォォォォォォォォォっ」


 自分でも気色悪い金属音のような叫びを上げると、そのまま園児の群れに突っ込み、指していた将棋盤をひっくり返したり、逃げ遅れた子の脇をくすぐったりして狼藉の限りを尽くす。怪人か。


 ぎゃあああダメ妖怪だぁぁぁっと意外に楽しそうに逃げ出す子供もいれば、本気でおびえてマジ走りで加速する子供、何あれキモ、と冷めた目で距離を取る女子もいるが、この場から、この子たちを遠ざけることが出来るのなら。そんな中、


「!!」


 芝生の上を逃げ惑う園児たちと引率の先生ふたり。……片方の描写は省くが、もう一方の先生は怯えて振り返った顔がまたしても僕の脈動を揺さぶったわけで。


「チョ~ォッキョッキョッキョ、キョ? KYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!」


 どさくさ紛れで女体に触れられないかな、と襲う振りをして本当に襲い掛かってみる。そんな既に身も心もゲルゲ化していた僕に、いきなり浴びせかけられる強烈な衝撃。意図せぬ叫びが僕の喉奥からいい天気の上空に向け、放たれていった。


 ああー、そうか、いまやスタンガンって結構配備されてるって聞くよね……不審者から子供たちを守るためには最早必須だもんね……でも僕は金属のギプスを体に巻き付けるように常に装着しているから、人一倍電流が全身を貫くんだよね……はがねにでんきはらめぇぇぇぇぇっ!


「……」


 薄れゆく意識を何とか引き戻そうと、両まぶたを必死でひくつかせてみるも、それが随意なのか不随意なのかはもう分からなかった。膝にも来た衝撃に、芝生の上にどうと倒れ込んでしまう僕。


 でも倒れている場合じゃない。遠目からは騒ぎをいち早く察知した制服組らしき人たちが、園児・先生たちと入れ代わるように、一直線にこちらに向かって来ているのが見て取れた。まずい、ヒーローが獄中にいたら二次元人倒せない。


「……!!」


 先ほど「イド出現」と告げられた場所まで、芝生の上をずり這いで何とか戻ろうとする僕。その低い視線の先にはフウカさんミロカさんの姿があるけれど、二人とも呆気に取られた風の顔でこちらを見ている。そんな僕を取り囲む影。


「そこのキミっ、動かないで!! 腕を頭の後ろで組むんだッ」


 威嚇する言葉が僕の頭上で発せられる。


 ままならない首を捻って確認すると、老若男女、四人の警察官に四方を囲まれてしまっていた。めいめいその手に警棒が構えられているけど、これもでんきタイプだよね……撃ち込まれたら今度こそ気ぃ失うわ。


 だが。……現役の方たちなら。……かえって心強いと言えなくもない。


「ミロカさんっ……『イド』は……あと何秒?」


 震える声を振り絞って、そう美麗少女に訊く。はっと我に返ったようなミロカさんは、左手首に目をやった。


「……あと2秒」


「……『ダイショウギチェンジ』っ!!」


 懐から五角形の金属駒を既に抜いていた僕は、抵抗しないで後ろ手に組みますよと見せかけて、その駒を後頭部に乗せるように掲げると、力の限り叫ぶのであった。

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