△2三銅将《どうしょう》
「!!」
いきなりの眩しい光と熱、そしてむわりと汗が結晶化してから昇華したかのような、独特のむせ返る臭気が僕の全身を包んだわけで。
ドアを開けるとそこは正にの異世界。開けた空間に、夢かと見まごう光景があった。いや、あったはあったが、正確には悪夢も六割くらい混ざっていた。
「……」
ざっと見、百人がとこいるんじゃないだろうか。無言でマシンを押したり引いたり格闘している、老若男女。身を包む、色とりどりのド派手なウェアの色や、静かなる熱気が、通用口っぽいところからまろび出て来た僕を直撃してきたわけで。
その体育館くらいはあるんじゃないかほどのスペースに、チェストプレス、シーテッドショルダープレス、などなど、カシキ老人が列挙していた魅惑のトレーニングマシンが確かにずらりと、いやそんなに密集してて大丈夫? くらいに林立している。
ガラスで区切られた向こう側にはプールで泳ぐ人たちの流れも見えたりで、凄い。本当……だったのか。まだ目の前に展開される光景が信じられずに、それらマシンの間を夢遊病者のようにふらふらとさまよう僕。
その時だった。
「ちょっと、邪魔」
呆気に取られていた僕の背後から、尖った声が掛かる。若い女性の声だ。尖りつつも、何か惹きつけられるような、そんな響きも内包している……僕がそんな反芻を行っていると、もう一度冷たく邪魔、との声が背中に刺さる。あ、すいませんと小声で謝りつつ、脇に退いて道を開けると、
「あれ見学? ……じゃないか。え? もしかして……」
怪訝そうな顔が、僕の目の前に突き出された。軽く汗ばんだその肌は水を弾かんばかりに艶やかな質感をしている。怪訝そうに細められていても、まだ大きなその瞳。すっと通った鼻筋。気の強そうな口許。結構明るめの茶色の髪は肩にかかるくらい。
しなやかな流線形を描く肢体は、メッシュが入ったぴったりとしたブラトップの黒いウェアに、下は七分くらいの同色のレギンスで覆われている。
え? 白昼夢? と思うくらい、僕の妄想がいつも描くような美少女と間近で対峙していたわけで。
驚愕が度を越した時に現れる真顔へと表情筋が移行しながら、僕は万が一にも現実だった時の事を考え、その見目麗しい姿を網膜へと焼き付けるために、大脳の演算能力をすべてそれに回し始める。
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