△1四銀
「……!!」
そこに映っていたのは、学生服姿の男女の集団が、何か同じ大きさくらいの黒い、蠢く何かと対峙しているものだった。何かの動画か……?
僕の高校の制服だ。撮影している角度からは彼らの背中側しか見えないものの、学ランにセーラー、今時そんなのを採用し続けているのなんてうちしか無い。
よく見ると、学生たちと相対しているのは、何というか五角形に手足が生えたようなシルエットをしていた。それらが何体も互いに一定の距離を取って立ち並んでいる。
映像はドローンで撮影しているようだ。多分正規のではないのだろう。妨害波にやられながらも、その度、復帰して飛行し続けている。よほどの技術なのだろうとは思うが、画面はぐわんぐわん揺れて、酔いを強力に誘う。それに耐えながら見続けていると、ふ、とその「黒い五角形」に焦点が合った。
<飛車>
確かにそう書かれていた。錦旗書体で。つまり、等身大の将棋駒がわらわらといる、そんな状況。
五角形の将棋駒がロボットのような手足を生やしている様は、何かのキャラクターのように見える。例えば子供向け将棋入門とかで見かけるイラストのような。
イベント? だが、そんな安穏な空気は、画面からは漂っては来ない。
感じるのは、不穏で殺伐とした、「戦闘」の雰囲気だけだった。
「……奴らを我々は『二次元人』と呼称している。将棋盤の上で躍動する駒たちと同じく、列と段のみにしか、空間意義を持たないという意味でな」
老人の言っている意味はやはりよく分からないが、その「二次元人」とやらがイベントをハシゴするゆるキャラではないということ、さらには我々人類の味方ではないということだけは分かった。
黒い金属のような質感を持った、鉄骨を組み合わせたかのような腕のひとつが、その眼前にいた女子高生の胸を貫いたからだ。
いきなりのショッキング映像に、小さな画面の出来事であったが、僕は激しく動揺してしまう。
「こ、これ……」
何かの作られた映像には思えなかった。だが、現実感も同様に無かった。
金属のパイプの寄り集めのような「腕」を、セーラー服の背中から生やした女子生徒の体からは、血が噴き出すことも染み出すことも無く、その硬直した体は、うっすら光る無数の球体に分裂すると、画面の奥の方へと引っ張られるようにして消えていった。
一体これは……何だっていうんだ。
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