『理想宮』(5)

 新聞を配達しようとした若い男が、元郵便配達員の家のドアが開いていることを不審に思った。家の中に老人がいなかったため、男は彼の家の周りを捜索する。そして宮殿の前で息絶えている老人を見つけた。

 かねてから村の話し合いで彼とその娘は同じ墓地に入れることが決められていた。男は娘とともにその宮殿に眠らせてくれるよう頼んでいたが、それは村が許さなかった。交渉数年目で男も折れて、娘と同じ場所に埋葬されるならそれでいいと言った。観光名所として利用しようとしているのに、死体が二つ収められているとあっては評判が悪くなってしまうと考えていた村人たちは、その言葉に胸を撫で下ろして安心した。だから、誰も老人の次の呟きを聞いていなかった。


「僕と彼女の魂は、きっとあの理想の宮殿にいる」

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短編集『一新星』 荒戸 花 @hana_areto

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