『理想宮』
『理想宮』(1)
郵便配達員の娘、エマは読み聞かせが好きな子供だった。
さまざまなストーリーが二人の宮殿では語られた。もちろん、二人は宮殿に住んでなどいない。どこにでもある小狭い家に二人は住んでいた。清潔に保たれてはいるが、古びている状態はあまり隠せない。
だけど二人の物語はいつも、二人の空想上の宮殿で語られた。異国のものも天使も悪魔も怪物も英雄も入り乱れた、豪華絢爛たる二人だけの宮殿。同居人たちに挨拶を済ませると、父と娘は寝室にこもって読み聞かせを始めるのだ。いつの間にかどちらも寝入ってしまい、目覚めればいつもの自宅に戻ってきている。父は仕事に出て、娘はベッドからそれを見送るのだ。
父親はごく普通の郵便配達員だ。自転車をカラカラと鳴らして、町をぐるぐると回る。
仕事柄、色々な手紙を目にするからか、男はよく異国に想いを馳せた。休みになると図書館に繰り出して、いろいろな本を自分と娘のために借りる。異国の物語だったり、異国そのものについての書物だとかを好んで借りた。
二人とも夢中で本を読んでは、その日の夜になると二人だけの宮殿にその異国の存在を呼び込むのだ。そしていつもどおり二人は宮殿の寝室にこもって、読み聞かせを始めた。
若くして妻を失い、そしてさらにその娘も根治できない病に罹っているような状況ではあったが、二人は幸せだった。悲嘆に暮れることもできたろうに、二人は幸せを見つめ続けた。
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