『モンキー・ハンティング』

『モンキー・ハンティング』(1)

 砂漠のとあるペット商は、売れ残った大勢の猿を眺めていた。命を売買する職業柄のせいかペット商の目はギョロリとしており、その目はいつも猿たちを怯えさせた。

 ペットたちの態度は様々だった。檻の壁に手をついたままペット商を見るとなしに見る猿や、片隅で身を寄せ合う猿など。

 砂漠の茫漠たる荒野に、大きな檻がいくつも置いてある。ざっと見積もって、数は五十ぐらいだろうか。このすべてが売れ残りだった。品種が悪いとか見た目が気に食わないとか難癖をつけられて本店で返品を食らったガラクタの山だった。

 家族と離れたせいか、ギャーギャーと喚き立てる猿も少なくなかった。しかし、ペット商が見せしめとして一匹の猿の頭を撃ち抜いてからは、水を打ったように静かになった。便利なものだなとペット商は感心した。商品としては程度が低いが、扱いやすいという性質は悪くない。

 いったいどういう流行の移り変わりなのか、現在では猿がペットの主流なのである。社会性がそこそこ高かったり、従順な点が好まれているのかもしれない。

 この猿たちにしても、一度は商品として仕立て上げたものだ。ちゃんと去勢もしてある。だから、このまま砂漠に解き放ったところで、勝手に繁殖して地球の生態系を汚す心配もない。

 ただ、この廃棄品をどうするかは、ペット商の手に委ねられているのである。言外ではあったが、上長からは廃棄しろという旨の言葉をかけられていた。

 適当に宇宙に放り投げたほうがいいようにも思ったが、こうして砂漠に運んできてしまったのだからしょうがない。

 ペット商は、ちょっとした遊びを思いついた。

 檻の錠前を一つ外した。大きめの南京錠のような錠前が、砂漠に落ちて音を立てる。

 最初は呆然としていたが、ドアが開放されたということを理解するや否や、猿たちは我先にと出口に殺到した。

 猿たちが入り口でもつれ合っている様を見るのも悪くなかったが、ペット商はそれだけで終わらせるつもりはなかった。

 まずは威嚇射撃だ。猿の足元を狙って発砲する。

 猿たちは恐怖やら混乱やらで叫びながら足をジタバタさせて逃げていく。

 そこそこ愉快な気持ちになったペット商は、今度はきちんと狙いをつけて撃った。銃弾を受け、バタリバタリと、猿たちが倒れていく。檻から自由を得たはずの猿たちは、あっという間に全員死んでいた。

 ペット商はたいして愉快な気持ちにはならないものだなと思った。暇つぶしにもならなかった。

「おい、タバコいるか」

 後ろから声をかけられて、ペット商は振り返った。商売仲間が進捗を確認しにきたようだった。

 ペット商はありがとうと言って、差し出されたタバコを触手で受け取った。

 イカやタコと人間を足したような生物は、かつて地球と呼ばれた惑星でこの猿たちが嗜んでいたというタバコを楽しんでいた。粘ついた口を開いて紫煙を吐き出すペット商を、檻の猿たちは睨んでいる。異形の生物であるペット商たちはどこ吹く風だ。

「まあいい。こいつらはこのまま放っておいても暑さでくたばるだろう」

 ペット商は煙草を触手の粘液で握り潰すと、停めておいた宇宙船に乗り込んでいった。

 彼ら異星の支配者たちが秘密裏に地球の現状を調査した結果、この星を実質支配していた人類と呼ばれる猿の派生的生物が星を壊滅させる勢いで繁殖しているとわかった。

 異星人たちは一部の猿をペットとして捕獲して、あとはすっぱり絶滅させると決定した。

 作戦は順調に進んだ。栄華を極めたはずの人類と呼ばれる猿たちに為す術はなかった。

 宇宙船はゆっくりと浮上していった。

 遠くなる大自然を見下ろしながら、より美しい惑星になったなとペット商たちは思った。

 かつては夜になっても火事のように煌々と灯りがついていたし、空気の濁りようなんて酷いものだった。よくもまあこれだけ自分たちの不始末を放置しておけるものだと異星人たちは呆れたものだった。

 彼らが次に地球を訪れるのは、猿たちが打ち立てた都市のほとんどが緑で埋め尽くされている頃だった。再度この星を訪れた時に見られるであろうその美しい世界を想像するだけで、異星人たちは幸せな気持ちになるのだった。

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