第24話 不思議な出会い
寒さが厳しく感じられるようになった今日このごろ。
今日の俺――こと、
ことの発端は寒さに耐えきれなくなった俺が、帰り道にある自動販売機でコーンスープでも買おうと思い至ったことによる。全く、人の思いつきはバカにならないと思い知らされた。
冬休みが近づくに連れ、幼馴染の
「……」
「どうしたの、
いつからそこにいたのか。なぜ俺のことをお兄ちゃんなどと呼ぶのか。皆目検討つかないが、その呼び方に少し嬉しさのような喜びのような、何とも言えない歓喜があったのは確かだ。
ニッコリと、小悪魔のような笑みを浮かべている幼女に身に覚えがない俺は、多分に嫌な予感を感じつつ、自動販売機で目的のコーンスープを購入する。そうして、コーンスープを取り出した様子を見ていた幼女が、物珍しそうに観ていた。
見つめられていることに気がついて、俺は恐る恐る尋ねる。
「……飲みたいのか?」
「え? ……くれるの?」
「まあ……俺は新しいの買うし。ほしいならやるけど……」
「わぁ、ありがとう。お兄ちゃん」
よっぽど欲しかったのか。それとも貰えたことが嬉しかったのか。幼女は満面の笑みで、封の開いたコーンスープを受け取った。そうして、俺はもう一つ同じものを購入した。
俺ばかり暖を取るのは忍びないと思い、念の為に麻里奈に温かい飲み物が欲しいかを聞こうと、我が
まさか、俺が幼女に飲み物を提供したから、ロリコンとでも思われたのでは……!? まずい……。一回、イヴの弁当事件でボコボコにされたことがあるから、今回も前回よろしくこてんぱんにされるのでは……!? 全く幼馴染は嫉妬深くて困るぜ、マジでごめんなさい。
幼馴染の無慈悲な暴力が飛んでくると考えた俺は、その魔の手から逃れるために手で顔を隠すが、どうも暴力が降り注がない。もう一度注意深く麻里奈の顔を見てみると、一点を見つめて何かに驚いたようなふうだった。なぜに?
一体何に驚いているのだろう。
麻里奈の視線の先を見ようと、その方へ視線を向けた。すると、そこには美味しそうにコーンスープを飲む幼女の姿があって。特別なにかあるわけではなかった。よもや、怯えた俺に怯えたとでも言うのだろうか。それはないか。
冷静になって、仕方なく麻里奈に声をかける。
「麻里奈?」
「へ? あ、あぁうん? どうしたの、きょーちゃん?」
「何か飲むか? あの、奢るけど……」
「え? あっ、じゃあ、ホットカルピスちょーだい」
ぼーっとしていたのか。あるいは集中していたのか。実に女の子とはわからないものである。俺は財布の中から小銭を取り出して、ご注文のホットカルピスを購入する。それを麻里奈へと手渡すと、後ろから声が聞こえた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「はい?」
「お兄ちゃんの名前は、なんていうの?」
「俺? 御門恭介だけど……?」
「御門……恭介……そっか」
はて、一体何がそうかなのだろうか。でも、今どきの子供はみんなこうなのか? なんていうか、礼儀がないというか、なんというか……。カワイイから許すけど。
とても不思議に思える幼女であるが、害はなさそうだし、特別排斥するほどの相手でもないので、飽きるまで相手をしてやろうと思っていた。というのも、麻里奈の発言で少し考えが変わる。
「ね、ねえ、きょーちゃん?」
「どうした?」
「そのね……実は――」
俺の服の袖を引っ張り、密かに何かを言おうとした麻里奈であったが、視線が一瞬俺から離れたかと思うと、言葉が詰まった。そして、次の瞬間にはなんとも言えない間の悪い顔になって、言葉を濁す。
「えっと……なんでもない……」
「……? どうしたんだ?」
「あー、ほら! 夕ご飯の買い出しに行かなきゃね!」
「今日も俺の家で食べていくんですね……」
最近、特に俺の家にいる時間が多くなった麻里奈が、急かすようにそう言うと、俺は引っ張られるように連れて行かれそうになる。
しかし、せっかくであった幼女に挨拶もなしに別れるというのは一高校生として礼儀がないと思ったので、挨拶くらいはしようと幼女の方へと振り返った。すると、そこには幼女の姿はなく、代わりに不敵な笑みを浮かべた神様が宙を浮いていた。
「……タナトス」
「どうしたんだい?」
「それはこっちのセリフだ。夕暮れに外にいるなんて珍しいじゃないか」
「まあね。僕も仕事さ。ほら、僕は死神だからね」
タナトスの言い分が正しければ、誰かしらの魂でも回収しに行っていたのだろう。それ以上深くは聞くまい。というか、聞いたところでわかるはずもない。ていうか祟られそうで怖い。
それよりも、タナトスの更に後ろにいたと思われる幼女の姿が見えない。
まさか、さっきまでの幼女がタナトスだなんてこと……ないよな?
多分に嫌な予感を感じつつ、その予感を払拭するためにタナトスへと質問をした。
「なあ、タナトス」
「なんだい?」
「いや……お前って、女装の趣味とか……あるのか?」
「……え?」
あ、この反応は大丈夫だわ。さっきの幼女がタナトスっていう線は完全に消え去りましたわ。
かなり微妙な顔をするタナトスに、若干信頼度を失った気がするが、容疑は晴らせた。では、問題の幼女であるが……。
「ほ、ほら、きょーちゃん! 買い物いこ!」
「え? あ、ああ、うん……」
無理矢理にでも買い物に行きたいような麻里奈によって、俺はそれ以上を考えることを諦めさせられた。なんというか力強いな、今日の麻里奈!? 制服が伸びそうなんだが!?
結局、別れの挨拶すらできず、というか幼女の姿が忽然といなくなってしまった。
一体、あの幼女は何者だったのだろう。真実は闇の中――というよりは夕暮れの中と言うべきか。
なんとも煮え切らない思いをするはめになったが、俺は麻里奈に引っ張られるようにスーパーへと道のりを変更して歩き始めた。
少しだけ気になったのは、夕暮れだと思っていた時間帯が、思いの外早く進んだことだろうか。見れば、日は沈み、夜の世界が顔を見せていた。
「ホント、冬ってどうしてこう、夜になるのが早いんだろうな……」
「ニュクスの眠りが浅いからさ」
「ニュクス?」
「この話は後にしよう。君のことが大好きな犬っころが、凄まじい形相で僕を睨みつけるからね」
「犬っころいうな! それと、私は――」
「落ち着けって……一応、近所の目もあるんだから……」
犬猿の仲とはこの事を言う。非常に相性の悪い二人は、こうして一緒にいるべきじゃないとわかってはいつつも、なぜか二人は一緒の空間にいるんだ。まったく、喧嘩をしてまで俺の家にいたがる理由をぜひとも教えてもらいたいものだ。
こうして俺と麻里奈、タナトスを加えた三人は夕食の買い出しにスーパーへと足早に進みだした。
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