第五十六話 第三軍との別れ
「……それは……また突拍子もないことを思いつくな」
幕舎の中、タディオールは呆気に取られている。ウルヴンが静かに続けた。
「タディオール殿をはじめ第三軍、及びジェンマには大きな負担を強いることは重々承知です。しかし……この策以外では勝利への道は閉ざされる」
「うむ……」
タディオールはしばらく逡巡していたが、やがて覚悟を決めたように頷いた。
「いや、俺はそなたの策を信じよう。元より第三軍がジェンマより遠ざかったのもこの機を狙っていたわけだしな」
ウルヴンが頷く。
「それにしても本当にいいのか。せめて第六小隊の一部の人間でも……」
タディオールの言葉にウルヴンは首を振った。
「こちらは人数が増えれば増えるほど危険度が増します。カラナントへ向かうのは私達だけで」
「分かった……。こちらも覚悟を決めよう。アル殿……いや、イリアス殿下」
タディオールはイリアスに向き直った。
「第六小隊の者達は皆、貴方に敬服しておられました。またあのような隊長を得たいと。どうやら短い期間で随分と成長を遂げられたようですな」
「いえ、タディオールの常日頃からの練兵あってこそだと思います。これから戦に向かうのです。無理をしないよう……とは言いませんが、どうか皆ご無事で……」
かたじけない、というとタディオールは頭を下げた。
「さあ、時間がありません。すぐにでも行動に移りましょう」
タディオールを先頭にイリアス、ウルヴン、ガトラ、ノアが幕舎から出る。眼の前には整然と並び立つ第三軍の姿があった。
「──聞け、我らはこれより……賊の手から民を救うためジェンマへと向かう!」
タディオールの言葉にしん、と兵たちは聞き入っていた。
「相手はアラメイニ軍だ。ジェンマの一軍、二軍は苦戦を強いられていると聞く。街にいる家族達の安否も気にかかるであろう。なんとしても暴虐から無辜の民を救わねばならん。戦いは熾烈を極めるは必至。その覚悟はあるか!」
おお、と怒号が上がる。タディオールは大きく頷くと続けた。
「よろしい、それでは速やかに荷物をまとめよ! すぐにでも進軍する!」
その掛け声とともに軍は慌ただしく動き出した。イリアスがその中に進み出た。
「ササク、それに第六小隊の皆、世話になったね」
「とんでもない。再び旅立たれるそうですね。第一小隊との模擬戦、まるで冒険に出たようなあの谷での出来事、俺ら一生忘れませんぜ!」
「ふふっ、命を粗末にするなよ」
ササクはガトラの言葉に大きく頷いた。
「隊長殿もお元気で! またお会いできる日を!」
そう言い残すと、ササク達第六小隊は去っていった。
「……頼もしいね。きっとあの小隊なら大丈夫。ジェンマを救ってくれる」
イリアスの言葉にガトラは頷いた。
「……ええ、なんとも頼りがいのあるやつらです」
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