第四十九話 伝令

「申し上げます! ウルよりの使者、ただいま参られました!」

「来たか……。よし、通せ」

 使いの兵に伝え、カリオルはパドローに向き直った。

「思ったよりも早くやってまいりましたな」

「うむ……」

 パドローは黙り込んでいる。やがて執務室に一人の兵が現れた。

「ジェンマ首長パドロー殿で相違ないか?」

「いかにも……」

 パドローの答えを受け取ると、兵は手に持っていた書簡を広げ、その場で読み上げた。

「ウル臨時政府司令官、サザニール将軍より伝令。ノイ=ウル統治領はアラメイニ軍の指揮下に入った。直ちにその旨を広く布告し、周辺地域の安定化に尽力するように」

「アラメイニ軍!?」

 パドローとカリオルは驚いた様子で兵を見た。

「左様。……何か問題でも?」

「いや、その……あまりにも突然のことで……一度合議を開いてからでないと返事は……」

「否。選択肢は示されぬ。直ちに行動に移されよ。歯向かう地域があれば軍を出動しても構わんと。……万が一、その態度が示されぬ場合にはアラメイニ軍を率いた上でジェンマを直轄領地とする旨、将軍より承っておる」

「そんな……」

「以上だ。ゆめゆめ忘れなさるな。追って調査隊を派遣いたす」

 伝令兵は書簡をパドローに渡すと、素早く踵を返し去ろうとした。

「ああ、そういえば……」

 何かに気づいたように、伝令兵が振り向く。

「言い忘れていたが、カラナントは既に我等の手に落ちている。よもやと思うが……余計なことは考えぬことだ」

 そう言い捨てると、伝令兵は今度こそ去っていった。

「……どうなっておる、レトは何をしておるのだ? アラメイニなどと……」

 パドローは部屋の中を動き回っている。

「申し上げます」

 また別の兵が部屋に入ってきた。

「ええい、今度は何だ!?」

 苛立たしげにパドローが兵を睨む。兵は一瞬怯んだが、一礼すると言葉を続けた。

「現在休暇に入っている第三軍ですが、急変に対応するため各地の巡回任務に入ったとのことです。一応ご報告をと……」

「なんだと!? なぜ許可した!」

 カリオルが声を荒らげる。

「いえ、なんでも第六小隊の放っていた偵察部隊にアラメイニ軍の大規模な動きが捉えられたと……。危急ゆえ直ちに対応するよう、ワグリオ様とタディオール様もお許しになられましたので……」

「タディオール……」

 苦々しい顔のままカリオルはパドローの方を見やった。

「パドロー首長、これは由々しき事態ですぞ。ただちに追手を……」

「そんなことはどうでもよい! むしろ、この状況下で三軍が警戒にあたっているのなら願ったりではないか。……それよりもアラメイニだ、やつらジェンマの街をどうするつもりだ……」

「首長、あの者達を侮ってはいけませぬ! ガトラ達……いや、気をつけねばならぬのは、あのウルヴンとかいう男。あやつを押さえてしまえば……」

「どうでもいいと言っておろう! ただちに政務官達を集めよ!それとワグリオもだ。合議を開く!」

 血走った目でパドローが怒鳴り散らす。しばしカリオルは呆気にとられていたが、その問いにゆっくりと答えた。

「しかし、合議は認められぬと先程ウルよりの使者が……」

「合議無しに決められるわけがなかろう! 文面通りに受け取りおって、貴様は木偶の坊か? いいから、とっとと皆を呼べ!」

「……かしこまりました……」

 癇癪を起こすパドローに苦々しい顔でカリオルは一礼をし、部屋を出ていった。

「くそ……どうしたらいい……どうすればこのジェンマを……」

 部屋に残るパドローは窓の外を睨みつけながら呟いた。

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