第三十八話 役場にて
役場の中は小振りだが、清潔感と開放感の伴う居心地の良い空間だった。天井は高く取られ、左右にある大柱には細かい彫刻が施されている。銅像などの調度品が程よく並び、文化的な成熟度をこの建物のみで表しているようにも見えた。初めて見る者には宮殿と言っても通じそうな造作である。右手には階段があり、こちらから上階の執務室へと繋がっているという。眼の前には両開きの扉があり、デューラスはそちらへ向かうと何度かノックした。
「デューラスです。お連れしました」
「ああ、入ってよろしい」
中からの返事を確認すると、ゆっくりとルエンが扉を開いた。
「失礼します……おや、首長は?」
部屋には応接用の椅子が何脚かと奥に政務や事務に使われると思われる机が置いてある。その机に肘を付き腰掛ける人物は、デューラスの問いに多少苛立たしげに答えた。
「パドロー首長もカリオル筆頭政務官も臨時の会議中だ。よって私の方で対応するよう仰せつかっている」
「左様ですか。ええと、……タイクン一行をお連れしました」
部屋で座っていた男は椅子から立ち上がり、一行を見据えながらそちらへ向かってきた。
「……ジェンマ統括軍長のワグリオだ。先程も言った通り、パドロー首長の代理でこの場におる」
じろりと一行を見ながら大袈裟に咳払いをするとワグリオは続けた。
「しかしな、儂とて決して暇な身ではない。この後にも外せぬ会合が控えておるのでな、手短に済ませるように」
「承知しとりますぞ……。マハタイト公主ドラウ=アイガー様からの供物を預かって参りました。非公式の物なれど遠慮せずに受け取っていただきたい、とのことです……」
タイクンは明らかに不機嫌そうな顔で荷物を机の上に広げてゆく。一方のワグリオはそんな様子を気にすることもなく、先程までの表情を一変させ、目の前の宝飾品に目を奪われていた。
「ほう……」
じゃらじゃらと一つずつ手に取り検分するワグリオに対し、ウルヴンが歩み寄った。
「ワグリオ殿、今しがたタイクンも申したように、こちらは非公式の供物となります」
「うん、それは分かっておるよ。それがどうしたのだ」
ワグリオはウルヴンに生返事をしながら、銀製の首飾りを自分に掛けてみせた。
「どうだ、デューラス」
「え、ええ、大変お似合いではないかと……」
得意げなワグリオの問いに対し、引きつった笑いでデューラスが答える。
「……本来でしたら、首長殿の元へ余すことなくお渡しするのが我らの役目ではありますが……その一部をワグリオ殿へこのままお贈りさせていただいてもよろしいのではないかと、我々は考えておりまして」
ウルヴンの言葉にワグリオの手がしばし止まる。やがてにやりと顔を歪ませると、上機嫌そうに言った。
「なるほどなるほど。確かにな、こうして検分をしておる儂がその価値を十分に知っておくというのも大切な任務」
「仰る通りです」
「お主、話が分かるの。ええと、名はなんと申す」
「は、タイクンが従者、ウルヴンと申します」
仰々しくウルヴンが頭を下げた。すっかり機嫌が良くなったワグリオは首飾りを身に着けたままウルヴンに向き直った。
「ウルヴン、首長及び政務官達にはこちらからよく伝えておこう。何かあれば儂に遠慮なく申すように」
「ありがたく。それではワグリオ殿、早速なのですが……」
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